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 HOME >実験する側の論理と自己批判―必要性否定できぬ、許可制確立を、単に学位取得のため、ムダ多く動物にすまない
 
 

こんな動物実験が必要ですか?

【連載コラム】動物実験見聞記(8) AVA-net News No.138

橋爪 竹一郎(宝塚造形芸術大学教授・元朝日新聞論説委員)


実験する側の論理と自己批判

必要性否定できぬ、許可制確立を、単に学位取得のため、ムダ多く動物にすまない

 

 キリスト教は動物を人間の食材、いわばツールとして割り切っている、慈悲の心がないではないか、と私は悪口をいった。とくに著名な神学者、北森嘉蔵牧師を例に批判したけれど、動物実験に限っては、私のほうから謝らねばならない。キリスト教国は実験動物の苦痛を減らすためにさまざまな模索と努力をしていることが前回の記事でわかった。動物たちは人間のために存在する、と割り切った上で、あとはできるだけ動物側の犠牲を和らげようという。欧米流の合理主義であろう。
 それにくらべ、仏教は、教えの上では、「人間も動物も同じ<衆生>、生き物仲間である。だからこそ生き物を殺すことを五戒、十戒の第一にあげ、もっとも重い罪と定めている」はずだが、口先だけだ。
 仏教国は日本をはじめ、動物実験は野放しである。密室の科学で、研究者任せなのだ。「動物にも、いったい全体、苦痛なんてあるのかしら?!」などと公式のシンポジウムで、うそぶいてみせる研究者たちに一任されているという現実。

 これまで書いたような文章をときどき新聞で特集した。そのつど、読者からの投稿が殺到する。身近なペット愛から、科学のあり方、宗教観、人生観までを巻き込んで、まるで人生論全集のようだった。動物実験をどうみるかは、その人の価値観を最終的に問いただすテーマであることを知らされた。今回は二人の実験当事者の投稿を紹介する。考え方は異なるが、ともに真摯な内容で考えさせられる。(肩書きと住所は当時のまま)

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当事者で動物実験を否定する人はいない、しかし…
研究者の姿勢はピンからキリまで千差万別
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 動物実験の実態は当事者しかわからない。当事者が明らかにしなければ外部からはうかがい知ることのできないのが、いまの動物実験のシステムである。
 以下は、大阪府に住む大学教員からいただいた投稿。システムの内部からの理を尽くしたバランスのとれたご意見に聞こえる。

 「獣医学教育に携わっている同僚の中には『すべての動物は人間の幸福のために存在している』と公言する傲慢な教授もたしかにいます。
 一方で、真剣に実験動物の福祉を考えている教授もいます。ピンからキリまで、千差万別です。ただし、動物実験を否定する人は私をふくめてひとりもいません。」

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動物を犠牲にした無意味な研究に憤り!
サリドマイド事件から増えた動物実験
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 「獣医学教育に携わっている者にとって動物を使っての教育や動物の病因を研究する際には、動物実験はどうしても避けることができないと思います。
 その際は、動物にできるだけ苦痛を与えないように配慮しているつもりです。ときとして、獣医学の学会などで何の目的で動物実験をしているかわからないような研究発表を聞くと、動物の命を犠牲にして!と憤りを感じます。
 病気の治療や症状の緩和に使われる薬剤を必要としない人はいないでしょう。薬剤を必要とするならば、薬剤の開発には動物実験はどうしても否定できないのです。例えばサリドマイドによる奇形児問題、これは動物実験をもっと増やして各種の検査を念入りにしておけば妨げられた事故といってよいのです。」

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二重に動物実験を繰り返すムダ
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 「この事故以来、動物実験の量、質ともに重視されはじめ、今日にいたっています。厚生省で新薬の認可を受ける際に出す資料はばく大です。そのほとんどは薬の効果、毒性・副作用などの判定に必要なものとされているのです。これらの資料のために、ときとして過酷な動物実験は必要です。
 しかし、輸出国でじゅうぶんに動物実験をしてパスした薬剤を日本で再び同様の動物実験を繰り返す必要はないと思われます。現実にはそういう二重の動物実験をおこなうケースがけっこうあるのです。外国でのデータをそのまま認可資料とすれば、動物実験を少なくできるし、無駄を省き、経費節減にもなるでしょう。こういう点は再考する必要があると思います。
 動物実験の際、麻酔するのがめんどうとか、実験後の動物が管理されないで化膿したりすることもよく見聞しますが、これなどは研究者のモラル以前の問題であり、許すことができません。
 日本は実験動物の飼育をふくめ、医薬研究施設や運営の仕組みも遅れているのです。もちろん、動物実験をする際にも欧米のような事前審査、許可、外部の人の意見を受け入れるような方法を法的に確立すべきです。」

 『すべての動物は人間の幸福のために存在している』とは、ときどきキリスト教の文献でお目にかかるフレーズだ。しかし、動物実験をする研究者がこんな場面で、こんなことを公言しているのを聞くと、また違った意味で不快感がこみあげてくる。
 サリドマイドによる奇形児問題から、動物実験が質量ともに増えたということは知らなかった。
 実験動物の飼育管理や、術後の処置については東京国立療養所村山病院の「実験犬シロ」の事件があまりにも有名だ。野上ふさ子さんらのメンバーが具体的に突きつけ、新聞やテレビも大きく取り上げ、研究者らの日ごろの言動が嘘八百であることを世間に周知させた。これはのちにくわしく経過を追う。

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無計画な動物実験の横行
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 つぎは京都府の開業医の方からのお手紙だ。医学教育のあり方にも言及して動物実験の問題点をつく。天からの良心の響きに聞こえる。

 「ムダとも思える結果のなかに次のヒントがうまれることも事実だが、それでも現行の動物実験にはあまりにムダが多すぎる。
 例えば多数の医師(医局員)が教授の指導のもと、学位取得を目的に数年間、動物実験で研究する。その多くは熟達した研究者でもなく、実験そのものにも十分な継続性や計画性があるとは思われない。
 学位を得て医局を去り、一般の臨床医(病人を実際に診察、治療する医者のこと)になったあとは二度と実験をすることはない。実験で得られたデータは、個人の学位取得という箔付けに役立つだけ。将来の医学に役立つことは一般にはまずありえない。」

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いたずらに動物を苦しめ、殺し、臓器をとる実験
実験よりもっと患者と心触れ合う臨床医療をめざせ!
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 「実験の方法論も動物利用の倫理についても十分な指導と認識が乏しいまま、動物をいたずらに苦しめ、殺害し、臓器を採取する。薬のテストにしても、意味のない試行錯誤をくりかえしている。.臨床医に動物実験を含む医学研究がそんなに必要だろうか。
 人それぞれに特性があるように、実験よりその若い力を患者と、心ふれあう臨床に傾けたほうが豊かに才能を伸ばせる医師も多いはずだ。
 私は幸い、動物実験に従事することはなかった。しかし、同僚の実験を垣間見ながら救いを求める動物の悲痛な叫びを聞くたび、自分の心のなかに『何をしているのだ、はやく助けてやれ』と叫ぶものがあった。
 しかし、組織の中で行われる状況のもと、くちびるをかみながら、目を伏せるよりほかにすべはなかった。力失った亡骸をみて『すまない、何も力になってやれなくて』とむなしく思うのみであった。」

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安易で無意味な実験に口出しできなかった組織の壁
実験者に要求される実験の計画性・技能・高い倫理性
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 「日本のように似たりよったりの新薬(有効な新薬と呼べるものは数少ない)が次々と開発、承認され、動物実験が安易にされ、また、患者に対する倫理的配慮が乏しい国では大学、研究所、会社という組織の中で非情な動物実験が日常化している。
 動物実験により得られた論文の末尾に指導者への謝辞はあっても、その死をいたむ言葉をいまだ目にしたことはない。必要悪とされる動物実験だが、十分な計画性と熟達した技能と高い倫理性を兼ねた<真の研究者>のみに許されるものとするなら、はるかに少ない犠牲で十分な成果をあげることも可能だ。
 医師も研究に投じる熱意を臨床に傾けるなら、日本の医療はもっと豊かなものになるはずである。
 動物実験の倫理に関する問題は現在の医学教育、薬剤に依存した医療、大学卒業後の医師教育の問題ともかかわりが深い。これからの大きな課題である。」

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学位取得のための実験とは
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 さきの特集で前島一淑・慶大教授は『動物実験は金も手間もかかる。学位取得のために安易に行うとは考えにくい』と私のインタビューに答えている。この医師にその点を質した。

 「担当教授やテーマによってももちろんばらつきはあるだろう。私の大学の場合で言うと、卒業生のだいたい5%は基礎医学へ、残りが臨床医学に進む。臨床医学に進む医師(医局員)の約3割が何らかの形で動物実験をし、学位をとる。」

 実験技術の不慣れ、未熟さは多くの関係者が指摘するが、この医師の場合も同僚たちが「実験がうまくいかない、またやり直しだ」とこぼしているのをしばしば耳にした。そのたびに動物の犠牲が増える。
 医局員たちは、昼間は大学病院などで診療に終われ、動物実験は夜間、片手間の形で行う。だから動物の飼育、管理もぞんざいでおろそかになりがちだ。実験という行為を除いては、できるだけ動物たちに快適な環境を、と努めている欧米とは、この点でも縁遠い。
 とりわけ、街の獣医さんにとって動物実験の研究やテーマと、日ごろ接する患者(動物)の一般診察や心のつながりと、どちらが大事なのか。動物実験は単に箔付け、といわれてもしかたがないのでは、と部外者の私でさえ疑ってしまう。

 

 

 

 

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