【連載コラム】本田真知子の動物実験あれこれ(1) AVA-net News No.125 |
ペットフードと動物実験
1.米国でのドッグフード騒動
犬と猫を飼っている友人たちがそれぞれペットフードについてのニュースを口にした。
米国で犬や猫がカナダ産のペットフードを食べて死んでいる。中国産のペットフードが米国で問題になっているらしいが、含まれているグルテンがおかしいらしい。
2つの話を聞いた私はそのニュースを落としていたので、驚いて早速インターネットで調べてみた。
カナダのペットフードメーカー、メニュー・フーズ社製ペットフードで犬や猫が15匹以上死亡しているというニュースをすぐに、見つけることができた。
ペットフードの原料として中国から輸入した、小麦グルテンや米タンパク質濃縮物に合成樹脂の材料となる有機化合物メラミンが大量に混入されていたのだが、このメラミンが犬や猫の死亡の原因だと米食品医薬品局(FDA)は発表し、輸入を禁じた。
米国の新聞ワシントン・ポストによると、メラミンはタンパク質の水準を高く見せかける効果があり、飼料価格を左右するタンパク質含有量を水増しするた
め、使われているという。目先の利益のためには、動物の命など気にしてはいられないということなのか。
2.メーカーの試食試験で猫が死亡
インターネットのニュースサイト以外に、愛犬家や愛猫家のブログやコラムのサイトを見ていると、メニュー・フーズ社が自社で問題になっているペットフードを猫に与えるという実験を行い9匹が死んでいるということと、その事実を非難しているものがいくつか見つかった。また、それで米食品医薬品局(FDA)のサイトを見ると3月17日のFDAニュースに「メニュー・フーズ社によって製造されたペットフードのリコール」として、9匹の猫の実験の件が載っていた。
それによると、消費者からメニュー・フーズ社のフードを食べた犬や猫が腎不全を起こしたというの苦情を受けた同社が、行ったルーチン試食試験を行い、9匹の猫が死亡したという。同社は、試験で死亡した9匹の猫以外に、4匹の猫と1匹の犬の死をFDAに報告した。この時点で、ペットフードの何が問題で腎不全が起き、犬と猫が死亡したのかは不明であった。
ここで疑問に思ったのは犬や猫の死亡が報告されているフードの安全性確認をどのようにしているのか、毒性分析の前に動物に与えてしまったのだろうか、ということだ。
人間に置き換えるのはいささか乱暴かもしれないが、健康被害の報告がされた食品に対してメーカーは原因特定の前に人体実験をして安全性確認をするだろうか? 人間なら人権を尊重されるし、人体実験される使途が苦情を申し立てることも出来るが、試験に用いられる動物はそういう権利も保証されないし、第一苦情を人間に向かって申し立てることが出来ない。ならば、9匹の猫を死なす前に、もう少し配慮があってもよかったのではないだろうか。
まずは問題となったフードを分析し、毒性のある物質が存在するかを確認し、確認できたら試験で動物に与えるのをやめるということが出来なかったのか? それとも、ルーチン試食試験なので、死亡報告があろうがなかろうが、ルーチン(日常)として試食をさせることの方が優先なのだろうか?
今回犬と猫の死亡数に開きがあるのは体の大きさに関係があると考えられる。また、おそらく試験に用いた動物全てが死亡したわけではないだろう。そうなると、死亡した動物の数が少なければ、例え毒性があってもリコールにならなかったのかもしれない。
3.ペットフードメーカーの試験用動物
以前、茨城県つくば市のあるペットフードメーカーの研究所に取材で訪問したことがある。そこにはたくさんのビーグルが飼われていた。人間の医療ではなく、犬のフード開発のために試食をする犬たちである。
人間の医療、美容、食料の開発のために使われる実験動物のような悲惨な感じはない。きれいな犬舎に健康管理もきちんとされ、毛艶もいい。運動もしているという。ペットフードの開発のためには、試食をする健康な犬が必要なので、健康管理はきちんとしていたので、まあ管理が出来ない飼い主に飼われるよりはましかなぁと思ったくらいだ。実際に、研究所の職員も犬たちの面倒をよく見ていたし、「へたな飼い主よりもよくしている」と胸を張っていた。
それはウソではないのだろう。しかし、メニュー・フーズ社が毒性があると強く疑われているフードを、ルーチン試食試験として飼っている動物に与えてしまったという報告を知り、結局他の実験動物とどう違うのかという思いが出てきてしまう。
今回の毒入りペットフード騒動、メーカーのメニュー・フーズ社も被害者ではある。 しかし、図らずもペットフードメーカーで飼育されている試食係りの動物がどのように試験に用いられているのかの一端を見ることになった。
この騒動の後、米国では多少高くても有機の食材を使ったペットフードを買い求める飼い主が増えているという。どのフードを選ぼうと、メーカーには飼育されている試験用の動物たちがいるということを忘れないようにしなくてはならない。
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