【連載コラム】本田真知子の動物実験あれこれ(5) AVA-net News No.129 |
経済優先からくる動物虐待
1.牛に電気ショックを与える
多くの人が、テレビのニュースで流れたその映像を見てショックを受けたと思う。
米国カリフォルニア州の食肉処理場で、作業員が高圧ホースや電気ショックを与える棒などで、病気で立てなくなった牛を追い立て、虐待している様子がニュース番組で報道された。
牛は絶えず電気ショックで責められ、ようやくのことで立ち上がると、だから「病気じゃない」ということで、食肉加工されたという。
米国の肉牛の飼育現場の問題は、以前からいろいろと報道されている。
ホルモン剤の投与、肉骨粉を飼料として与えている、BSEなどの病気が疑われる「へたり牛」を処理して食肉加工している、等々。米国産の牛肉の安全性の問題は大きいと思うが、日本国内での牛や豚の消費量はどんどん増えている。なぜそんなに肉を食わせるのか、肉を出すのかという感じだ。
肉の消費量が増えるということは、飼育にかかる穀類や水などを大量に消費していることになり、地球環境に悪影響だし、食料不足や水の問題なども引き起こしているのだけれど。
2.食肉加工される動物の幸せは
先述の食肉加工での動物の扱いは「どうせ、殺して食べてしまうから」と、食肉になる牛や豚、鶏などの幸せはどうでもいいという気持ちと、儲けのためには1頭でも多く食肉加工しないと、という経済の問題もあると思う。
前者の食用動物の幸せについては、イギリスでは王立動物愛護協会が食肉加工される牛や豚などにも、動物虐待と思われる扱いをしないように、独自の調査を行っている。例えば、輸送中にストレスを与えないようにと抜き打ちで検査したり。イギリスでは、食用動物でも輸送の際にどのくらいのスペースなら何頭まで、と決まっているからだ。
ストレスを与えられた動物の肉は硬くてまずいから、できるだけいい環境で育てようという話ではない。
そういう考えは、あくまでも人間側の都合だ。
この世に生を受けたのだから、たとえ殺され加工され、食品となる運命が待ち受けていても、生きている間はその動物の幸せに対して最大限の配慮をすべきだ、とう考えに基づいている。
3.経済優先の問題
安く大量に肉牛を育て、1頭のもれもなく肉にして売るというのが、肉牛を育てている人たちにとっては重要なことだ。
だから、病気が疑われる「へたり牛」が出てはいけないのだ。無理やり立たせてでも、病気ではないというふうに見せかけなければならない。そして、そういう工場での現場の仕事は決して楽でもないし、収入がいいものでもないだろう。牛に対する虐待は現場の労働者の憂さ晴らしかもしれない。
そう考えると、とても気持ちが沈んでくる。
経済優先が人に大きなストレスを与え、動物虐待につながるのかもしれない。
話は飛ぶが、動物実験が行われる医療の研究現場でも、研究者は大きなストレスを抱えている。かかっている費用に見合うだけの成果を挙げなければいけな
いからだ。
今は、万能細胞の研究競争が世界的に行われている。少しでも早く、そして有効な研究成果を発表して、特許をとることが莫大な利益を生み出すから、研究者もスポンサー(メーカーや大学など)も特許を取れる技術を目指す。
そこでは多くの実験動物が使われているし、命をもつ存在としての扱いなどできないだろう。経済優先の社会で人と動物の命をどのように守っていくのかということを考えなければいけない。
TVで電気ショックを与えられた牛の姿に、いろんなことを考えさせられた。
■資料
殺される前に倒れる牛の運命
今も記憶に残る牛のBSE(牛海綿状脳症)感染。脳がスポンジ状となって神経が侵されるため、牛はふらつき、よろけるなどして立つのも歩くのも困難となる。このような症状が現れた牛は、BSE感染のおそれがあるため、食肉処理場とと畜し、肉等にすることを各国が禁止している。
アメリカでは、年間約3500万頭もの牛が肉用に出荷されるが、起立や歩行困難でと殺場に運ばれる前に倒れてしまう牛(ダウナーと呼ばれている)は20万頭もいると推定されている。
昨年、アメリカの農務省食品安全検査局は、ダウナー牛の消費の禁止措置に例外を設け、これらの牛の一部も食用に回すことを提案した。(AVA-net事務局)
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