【連載コラム】本田真知子の動物実験あれこれ(10) AVA-net News No.134 |
家畜にも食の安全性の保証は必要では
1.牛に肉骨粉を与える酪農
1985年、英国において世界で初めての狂牛病(BSE)の発生を見たという。日本では2001年の9月に、農水省が狂牛病の疑いがある牛が見つかったと発表した。当初、英国政府は牛から人への感染や、母牛から子牛への感染を否定していたが、1996年に可能性を認めた。
狂牛病の原因は、飼料の牛や羊などをつぶしてつくった肉骨粉にある。そもそも草食動物である牛に、なぜ肉骨粉を与えたのだろう。しかも、牛に牛の肉骨粉を与えるという共食いをさせてまで。
狂牛病に関するシンポジウムに出たときに、会場にいた酪農家が「厚生省(当時)が牛乳の脂肪分を3%以上と決めてしまった。そのため、一年を通して牛乳の脂肪分を高めるために、肉骨粉を与えなくてはいけなくなった」と訴えていた。
私自身は、牛乳が無脂乳固形分8.0%以上、乳脂肪分3.0%以上などと決まっているとは知らなかったので、この発言に驚いた。
また、乳脂肪分を上げるだけでなく、成長促進のためにも肉骨粉を与えている。
2.妊娠しない豚
2002年、米国では遺伝子組み換えトウモロコシのBt(殺虫性)トウモロコシを餌にしている豚の繁殖率が激減していると報告されている。アイオワ州農務局によれば、ある農家では約80%との豚が妊娠しないという。また、他の農家にもこの傾向はあると報告している。しかし、Btトウモロコシによって偽性妊娠が起きると見られているとか。与えるのをやめると偽性妊娠もなくなる。
人が直接口にする遺伝子組み換え作物についてはまだ表示義務があるが、家畜に対してはどのような組み替え穀物が、どれほどの分量与えられているか、まったくわからない。
3.食の安全性の問題は人間だけに?
食の安全性の問題がある。
誰が、狂牛病の疑いのある牛の肉を食べたいだろうか。または、誰は偽性妊娠の豚を好んで食べたいと思うだろうか。
狂牛病は人間も感染するというし、偽性妊娠の豚からはどんな影響があるかわからない。不安がある。
しかし、食の安全性は人間だけに保証されるものだろうか。
多くの人が狂牛病の原因である肉骨粉のことを聞いたときに、牛に牛を与えるという事実に不安や気持ち悪さを感じたと思う。また、遺伝子組み換え食品を食
べることを、安全性の面から避けている人もいる。
人間が食べる家畜の牛や豚だから、与える餌の安全性を考えろといいたいのではない。
人間が与えるものしか食べられない、選択肢がない家畜に対して、私たちは傲慢で雑な餌の与え方をしていいのかということだ。
牛や豚がこの事実を知ったときに、不安や気持ち悪さを感じるだろうし、牛にいたっては草食動物である自分になぜ動物を、しかも同じ種類の牛を与えるのか
と、大いに怒るのではないかと思う。
いや、牛や豚はそんなことは分からないのだから、その気持ちなど忖度する必要はないのだという意見があるだろう。
逆に、私はそのくらいの想像力を持って、家畜に対することが必要なのではないだろうかといいたい。
私は肉食をしないが、それを否定もしない。他の生き物の命を貰って、私たちが生きているのだから、もう少し敬意を持って扱い、家畜の食の安全性も保証すべきではないだろうか。
敬意を持って家畜を飼育していれば、今のような工業化したような飼育は出来ないはずだ。手間もえさ代もかかるだろう。しかし、そのような飼育が、きっと今の食や環境のあり方を変えることになると思う。
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