残酷・無益な実験とは
猫を使った実験
AVA-net News No.74 (1999.5-6月号より)
会員の方より「猫は何の実験に、どのように使われているのですか?また、会のパネルやチラシにあるような写真は過去のものに思えますが、今でも行われているのですか?」というお問い合わせがありましたので、『医学、生物学研究のためのネコ』(ソフトサネンス社)を参考に、簡単にまとめてみました。
1.神経薬理の実験
ネコは、神経生理、神経学の実験に使われることが最も多いとされています。安全性(毒性)試験では、種差の違いが大きく、例えば、モルヒネは人間、サル、犬、うさぎには鎮静・鎮痛効果があるが、ネコ、ラット、マウスには逆に興奮作用を起こすなどがあるので、「種差」が問題となります。また実験用のネコはほとんどが家庭用のネコなので個体差のばらつきが大きいことも、実験に際して注意するよう書かれています。
ネコは、薬理、毒性試験において神経系の研究領域で最もよく使用されています。一口に神経薬理学の実験と言っても、いろいろな神経に作用する試験があります。例えば、中枢神経の試験では、ネコの脳に電極を植え込み、中枢興奮催眠薬、鎮痛剤、解熱剤など様々な薬物を使って、中枢神経へ作用する薬の実験をします。神経系の形態がヒトと似ているネコが好んで使われるのです。時には攻撃行動を誘発させるために、脳の一部を刺激したり、永久的に脳の一部または全部を破壊、切除することも行われます。
また、実験的に攻撃行動を引き出すために、脳の一部を破壊したり、脳の一部又は全部を破壊又は切除するとも書かれています。脳を切除するとウサギはすぐに死ぬがネコは長時間生存できるので好適であるとされています。その他にも、薬物が自律神経系や運動神経などにどのような作用を及ぼすか、様々な実験が行われています。
運動神経の試験では、末梢性筋の弛緩薬作用の検定や中枢性筋弛緩薬の検定によく使われます。脳除をして四肢を伸展し首をそらせ全身を硬直させるようなことも行われています。そしてまた、呼吸器系の試験では、呼吸に対する神経支配の研究のために、本来咳をするネコやイヌが使われ、人為的に咳を起こすために、器官粘膜を鶏の羽毛などで刺激したり、石けん末などが注入されます。イヌは無麻酔で、ネコは一部無麻酔で行われることが多いようです。その他にも、自律神経系、中枢神経系、消化器系、泌尿器系、生殖器系の試験など、様々な試験にネコは使われています。
また、ネコは向精神薬、催眠薬、鎮痛薬、解熱薬など神経に作用する医薬品の開発に使われます。鎮痛薬の効果を調べるためには実際にネコに痛みを与えなければなりません。「ヒトの凶暴性に対するモデルとして凶暴なネコを実験対象に選ぶ」、あるいは、人為的に脳の一部を破壊して攻撃的なネコを作り出す実験も行われます。けれども、そのような攻撃性と人間の凶暴性とは、そもそも同じ性質のものと言えるでしょうか?
2. 神経生理の実験
ネコが生理学の研究によく使用されるのは、入手が容易で値段も安く、大きさも適当で、ペットとして飼われその習性がよくわかっている、などの理由によるそうです。また、脳が発達しているので、動物の表情や行動を観察するのに適しているとか、どんな種でもだいたい脳の大きさが同じで、脳に電極を植え込むにあたって装置の使用が簡単という理由もあげられています。このような理由から、ネコは生理学領域、特に脳の生理学的研究に好んで使われてきました。
実験者がネコの脳神経実験を行う場合には、まず脳に電極を植え込む作業から始めます。ネコを固定し、頭部を切開して頭蓋を十分に露出してから、ドリルで頭蓋骨に孔を空け、電極を植え込みます。そして手術から1〜2週間たって実験が始まります。
脳に電極を植え込まれたネコは、体内へ(目的によって注入部分が異なる)薬物を注入され、その反応が観察されます。脳への電極刺激もあります。睡眠研究では脳幹の切断、大脳の研究では大脳の一部摘除も行われます。人為的に様々な情動(快、不快、怒り、恐怖など)を引き起こし、これに対して各種薬物を与える研究も行われます。人工的にてんかん発作を作り出すためには、脳内深部を電気ショックを与えたりします。このような実験では、観察期間が数ヶ月から2年もの長期に及ぶのです。
これらはネコを使った実験のほんの一例にすぎません。私たちには、ネコを使った実験の多くは無意味で残酷な実験だと思えます。このような数多く行われているにもかかわらず、その実態は私たちに知らされていません。実験の情報公開を求めるとともに、事実を人々に知ってもらうことが大切だと思っています。
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