【連載コラム】本田真知子の動物実験あれこれ(9) AVA-net News No.133 |
クローンペットをどう考える
1.ペット犬のクローンを商業化
韓国の元ソウル大学教授、ファン・ウソク(黄禹錫)氏が、クローンペットの商業化に乗り出すという。
ファン氏は韓国では最先端の獣医学を研究し、1999年に韓国初の牛のクローンを誕生させることに成功したとされる。その後、ヒトのクローン胚から胚性幹細胞(ES細胞)をつくり出す研究を世界に先駆け成功させたと報じられたが、2005年に研究報告が捏造だったと発覚。BSE耐性を持つとされるクローン牛、犬のクローンなどを成功させたと発表していたが、調査により犬のクローン以外は全て捏造であると報告された。
そんなファン氏でも犬のクローンに対しては世界的に評価(信用)されているのか、氏の研究チームは今年4月、チベタン・マスティフのクローンが、6匹の代理母から計17匹生まれたと公表した。
6月には、ファン氏が設立したスアム生命工学研究院は、米国のバイオ・アート・インターナショナルと組んでクローン犬の商業化に本格的に乗り出すと米紙ニューヨーク・タイムズが報じた。
2.愛犬をクローンしたい?
死んだ愛犬を生き返らせたいと思う飼い主は多いと思う。新しい子犬を手に入れても、死んだ愛犬と比較してしまう。
可能なら死んだ愛犬のクローンを作ってよみがえらせたいと思うのかもしれない。
しかし、死んだ犬とクローンで生まれた犬とは似て非なるもの。身体に現れる模様は違うかもしれないし、同じ飼い主が育ててもまったく同じに育つかの保証はない。
そして、クローン犬というのは他の動物の犠牲の上に立っている。
チベタン・マスティフのクローンの誕生には、6匹の代理母犬が必要だった。また、ほかの犬の卵子を必要とするので、当然手術で取り出すことになる。
人間の女性から卵子を取り出す場合は、できるだけ負担がかからないようになど、様々な配慮がされるが、雌犬に対する配慮が人間の女性ほどされないだろうと想像できる。
そして、クローン羊のドリーが登場して10年以上経ち、クローン牛もつくられているが、あまりうまくいっているとはいえないという。
クローン牛が流産になる場合が多い、死産、障害を持って生まれる、生まれてからも長生きするものが少ないなど、さまざまな問題があり、研究でそこが解決できるのか疑問だ。進めたい人たちは、技術が未熟であり、実験数が少ないからうまくいっていないように感じているのか。数をこなせれば、技術も習熟し、うまくいくように考えているのか。
3.食品にしない動物なら規制は必要ないのか
ペットのクローンは、牛や豚など食品として人間の口に入るものではないので、人にとっての安全論争の埒外になる。そして、規制の対象からもはずれるかもしれない。
しかし、本当にそれでいいのだろうか?
クローンは前述したように、1匹の犬のクローンを誕生させようとしたら、多くの雌犬が卵子の提供をし、代理母として使われる。また、成功率という形では公表されないだろうから、本当にどのくらいの卵子が何頭の犬から取り出され、何頭の犬が代理母となり、どのくらいの犬が正常な分娩をし、どのくらいの犬が流産や死産になり、障害などを持って生まれてきた犬はいないのか、まったくわからない。
ここで登場する犬たちは実験動物のように、注目され、議論の俎上に乗ることができるのだろうか?
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