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こんな動物実験が必要ですか?

【連載コラム】動物実験見聞記(1) AVA-net News No.130

橋爪 竹一郎(宝塚造形芸術大学教授・元朝日新聞論説委員)


教育過程における動物実験の意味とは?

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私に動物実験を教えてくれた1通の投書
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 新聞社の論説委員室に勤務していた私に読者からの1通の投書が回ってきた。差出人は30代の薬剤師の女性で、生きたウサギを解剖する学生時代の授業風景が淡々とつづられている。

 生体解剖され悲鳴をあげ失禁するウサギに爆笑する女子大生たち?無麻酔のモルモットの眼球をくり抜き、ガラス管を差し込む

 「大学薬学部の4年間の授業でいまも頭にこびりついている実習シーンがある。
 ウサギを仰向けにし、四肢を引き伸ばし、張り付け状にして縛る。鎮静剤も麻酔もしないまま、助手がはさみで毛を刈る。
 『あ、皮を切っちゃった。どうせ死ぬんだから、まあいいか』。
 指導教授がはさみでウサギの皮膚を切り裂き、筋肉をかき分け、指を突っ込んで血管をまさぐり、ひきずりだし、切断し、流血をガラス瓶で受ける。ウサギは
まだ生きている。小さな悲鳴を何度かあげた。そして失禁した。
 そのとき、学生たちのやったことは爆笑でした。つられて助手も教授も笑った。この間、ウサギの苦痛、生命の尊厳、無麻酔下で死ぬまで放っておく意義もひ
と言の説明もなかった。そのとき、私はショックでぼぅーっとなっていた。怒らなかった。抗議もしなかった。そのことがいま恥ずかしい。
 それだけでありません。その後、大学院に進学し研究室に入った私の友人は無麻酔でタコ糸のようなもので体中をぐるぐる巻きにされたモルモットの眼球をえ
ぐり取り、そこへガラス管を差し込んで血液をとる実験を見せつけられたといいます。
 私はウサギの実習のリポートを提出する際、極力抑えた言葉遣いで『内部告発されることも考え、少し気をつけた方が…?』と書き添えた。その後、緊急教授会
が開かれ、『うるさい学生がいるので』と実習内容が急に変更されたことをあとで知りました。」

 動物実験、という言葉は知っていた。医薬品その他の開発やテストで行われていることも知っていた。しかし、実験の細部や具体的な中身は知らなかったし、 あまり関心もなかった。投書の具体的な光景には驚かされた。差出人の学んだ大学は関西の名門女子大だ。その教室で白昼、こんな授業が行われれ、死に至る生体解剖を受けているウサギが悲鳴をあげて失禁したからといって、女子学生たちが大笑いし、教授や助手もつられて笑ったという。
 さらに研究室では、無麻酔のモルモットがぐるぐる巻きにされて眼球をくり抜かれ、ガラス管を差し込まれているという。

 投書を読んでしばらく、私はぼんやりとアホみたいなことを思案していた。「小動物たちは悲鳴をあげても、絶叫しても、だれも助けにきてくれないのだな。
駆け込み寺も警察も裁判所も市役所もないんだからな。でも、この正義はだれが保証し、この罪はだれが裁くのだろう。そして失われたいのちはどこへいったのだろうか」
 そのころ、もっともアクティブに動物実験の問題に取り組んでいた「動物実験の廃止を求める会」の当時のリーダー、野上ふさ子さんを訪ねたのだった。
 会は発足してまだ数年。リーダーの野上ふさ子さんも若々しかった。東京文京区の狭い事務所を訪ねると、細面、色白、めがねをかけた野上さんがひとり待っていてくれた。正面に「私の洋服(毛皮)はこれひとつしかないの。持っていかないで」と泣きながら懇願している小動物の動物保護のポスターがあり、センスがいいな、とおもった。
 野上さんは実験動物や毛皮を剥がれる動物の悲惨を写真やビデオをみながら淡々と話してくれた。感情に流されない、抑揚の乏しい語り口がかえって動物たち
の悲惨を浮き上がらせた。私は簡単にあの投書からの救済を期待してきたのだが、動物実験の問題はそんなに簡単でなかった。
 野上さんは内外の情報、文献にもくわしく、いくつか記事を書かせてもらった。しかし、知れば知るほど私自身が悲惨と絶望の泥沼に沈んでいく予感がした。これらの経緯はおいおい述べるとして、1通の投書と野上さんを結ぶ線が私の動物実験の原体験だ。

 いま、改めてその1通の投書、野上さんからもらった資料、当時の新聞記事などを前に、問い返したい。
 投書で紹介されているような教育実習の意義、意味、必要性だ。卒業後、学生は具体的に、どのように役立ったのか、この残酷さに見合うメリットは何だった
のだろうか、ほかに方法はないのか、ということだ。

 解剖実習の問題をもう少し詳しく知りたい。ネットを探してみた。懐かしい名前が出てきた。「なかの・まきこ」さん。当時、会の事務所で出会った。野上さんのファンで、仙台からやってきたといい、まだおかっぱ頭で、人形のようにあどけない女子高校生だった。自分で文章や絵をかいて、動物保護の雑誌「ひげとしっぽ」を出している。「かわいそうな動物のために尽くしたいんです」と小さな声で短く話した。
 その後、獣医師になったと聞いていたが、彼女のホームページを開くと、内外の文献を駆使したみごとな卒業論文「教育現場における動物実験代替法の導入に
ついて(要旨)」が掲載されていた。そこに、はからずも日本の大学医学部・獣医学部で学んだ4人の経験者のコメントが、まるで私の質問に答えるかのように引用されていた。要約して紹介させてもらう。

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動物実験はほんとうに必要だったのか? 4人の臨床医の証言
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動物実験は一切せず、代替法で卒業して医師になった

 1996年に大阪大学医学部を卒業し、現在は病院に勤務しているA医師は、在学中一切動物実験を行わずに代替法で学習し単位を取得した。
 「動物実験に疑問を持ち始めた。特に基礎系は毎年同じ内容をプログラムに沿って行う。単位を取るためにこなすだけで、尊い生命の残酷な浪費だと思わず
にはいられなかった。
 遺伝学の授業では、勇気を振り絞って手を挙げ、自分は信条として動物実験を受け入れられないので参加したくない、代替としてレポートなど別の課題を与え
てくれるようにと、教官やクラスメートの前で発言した。クラスはざわめき、教官も少々驚いて、後で個人的に話し合おうということになった。結局、後で教授と話をし、動物を扱う実習の時は、図書館で自習しておればよいということになった。
 これをきっかけに、同じような疑問を感じている学生がほかにもいることがわかり、教授会でも僕のような学生の存在を認識してくれたことで、その後の行動
がしやすくなった。
 このほか、生理学、薬理学などの実習も教授あてに手紙を書いたあと、教授室で話した。教授たちはアメリカなどで研究経験があり、欧米の動物実験に対する
厳しい批判をご存じで、快く了承してくれた。
 臨床に進んでからの実習では、実際に患者さんを相手にするものだったので、動物実験はなかった。
 こうして僕は動物実験をせずに医学部を卒業し、医者になることができた。僕のやり方は実習をボイコットしたのではなく、消極的で、動物実験の現状を変えるものではない。しかし、教官やクラスメートたちに、動物実験に疑問を持つ僕のような医学生が存在し、この動きは将釆増えて<る可能性があることなどを知ってもらえた。そういう意味はあったとおもう。」

大部分は必要ない。大学の制度を改善することが大事

 ロサンゼルスの動物病院に勤務するB獣医師は日本の大学時代の動物実験について。
 「はじめは『かわいそう』と声に出していた学生たちも、しだいに疲労と慣れで麻痺し、早く実験が終わることの方が重要に思われてきた。動物実験が本当に獣医師を養成するのに必要なら、意義はある。しかし大部分は、必要なかったり、削減できたり、代替法で充分だったりする。要は大学の制度を改善することだ。」

いま、実習を反芻しながら手術をしてはいない

 動物園に勤務しているC獣医師は、大学の動物を使った実習について、「ほとんどは教科書で述べられている原理を確認するもの。わざわざ多くの動物を苦痛にさらして実施する必要性があったのか疑問だ。いまの職場でわたしはあの当時の実習を反芻しながら手術をしてはいない。学生全員に見合った数だけ犬を犠牲にする必要はなかった。手術の実習を希望する学生に対しては、実際に病気で手術が必要な動物の手術の様子を見学したり手伝ったりすればいい」と話した。

既知の事実をなぞるだけの無意味な動物実験に反対!

 1997年東北大医学部を卒業し、医療機関に勤務するD医師は、大学時代の薬理学で犬を使用した実習をつぎのように振り返る。
 「既知の事実をなぞるだけの無意味な動物実験には反対。おそらく多くの医学生の意見は私と同じだと思う」。

 日本中のお医者さんがこんなふうであってほしい。私はすべての実験動物たちとともに祈ることにしよう。 

 

 

 

 

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