【連載コラム】本田真知子の動物実験あれこれ(8) AVA-net News No.136 |
犬の遺伝子検査と動物愛護
1.遺伝子検査はなんのため
犬で遺伝性の疾患が問題になっている。ある犬種が急に人気になった場合、親や兄弟、犬の健康状態などを考慮せずに売るためだけに、まるで粗製乱造といっ
た感じで繁殖されペットショップなどに供給される。
そのため、その犬種独特の遺伝病がよく見られることになり、多くの愛犬家と犬自身が悲しい思いをしてきた。例えば、ゴールデン・レトリーバーやラブラ
ドール・レトリーバーの股関節不全である(ただし、股関節形成不全を引き起こす遺伝子はまだ分かっていないらしい)。
そこで遺伝子性疾患に対する関心が高まり、検査が行われるようになった。その犬の病気の診断はもちろんのこと、病気を発症していなくても交配によって、
遺伝病のリスクがある犬を生まれさせないようにするためだ。
2.血統書への記載や繁殖に必要
例えば、日本警察犬協会の血統書では、犬の個体情報として、CHD(股関節)、CED(肘関節)、CPL(膝蓋骨)、MC(マイクロチップ)などと並
んで、DNAの検査情報を表記している。また、日本ケンネルクラブ(JKC)でも、血統書にDNA登録を記載することになっている。
そのために、純血種の犬を繁殖しようとする場合には、DNA検査(遺伝子検査)が必要となってくるのだ。
繁殖をするオス犬はもちろんのこと、ドッグショーなどでチャンピオンになった犬はオスでもメスでもDNA登録が必要になる。
人間のコントロール下で繁殖をする純血種の犬だからこそ、遺伝病のリスクをもった犬を繁殖させない、またリスクを持った子犬を産ませないということでは
大切だ。金儲けのためだけに、病気の子犬やリスクを持った子犬を世にたくさん誕生させたという苦い経験から来ている予防手段といえる。
3.居心地の悪さはどこから
そうはいっても、やはり遺伝子検査に対しては、なんとなくもやもやとしたもの、居心地の悪さみたいなものを感じる。
犬の繁殖がお金を儲けるという目的で行われるのではなく、血統を守るためやそもそも持っている能力を守るために行われ、金銭的なメリットがなかった
ら、おそらく犬の遺伝病は遺伝子検査をするほど問題にならなかったのではないか。
ここにあるのは、動物愛護や動物の権利、倫理観の問題ではないだろうか。
クローン動物でも、動物実験でも同じことが言えると思う。
人間に必要な薬品や化粧品の実験だから、動物実験が必要だ。医学の進歩のために、動物実験が必要だ。おいしい肉質の牛のクローンをつくることで、確実
においしい牛をつくり、お金を儲けたいからたくさんの牛が犠牲になってもいい。死んでしまった愛犬や愛猫をもう一度抱きたいから、ほかの犬や猫が犠牲に
なってもいい。
すべて人間が優先される。もちろん、人間を中心にした社会だから、人間が優先されるのは仕方がないことかもしれないが、だからこそ他の生き物に対する
愛護の気持ち、権利を少し守ろうとか、痛みを分かろうとか、粗雑に扱わないという倫理観が必要ではないだろうか。
ここをもう一度深く考え、議論すべきなのではないだろうかと思う。
遺伝病のリスクがある犬がいないほうがいいとは思うが、それが遺伝子検査で保証されるものなのか。私たち人間の側の愛護という気持ちで、クリアできな
いのだろうか・・・
なんとかくどうにかならないかなぁと堂々巡りのように考える。
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