仕事場にヤクルトレディが来るので、私は時々、ヨーグルトや野菜ジュースを買っている。ある日、ヤクルトレディが笑顔でヤクルト化粧品のチラシを出して、エイジングコントロールの新製品を勧めてきた。
私は動物実験をしてないということを基準に、化粧品を選んでいる。そして、最近は多くの化粧品メーカーで動物実験をやめているという印象があった。
だから、当然「していません」という返事を期待して、「ヤクルトの化粧品は動物実験をしているのですか?」と聞いた。
しかし、彼女は一瞬真顔というか、無表情になった。まるで、「動物実験」という単語をよその国の言葉として聞いたかのようだ。
「最近は動物実験をしていない化粧品メーカーが増えているでしょう。ヤクルトはどうなんですか? 私は動物実験をしていないメーカーの化粧品を選ぶようにしているんですよ」と続けた。
彼女は、少々戸惑った表情で「聞いてみます」といって、帰っていった。
そして、何日後かに彼女はやってきて、「聞いてみたのですが、動物実験をしているみたいです。人間の使うものは、安全性の問題があるので動物実験をしないといけないということです」と教えてくれた。
彼女の律儀さに感心しつつも、「動物実験って無駄なものも多いし、動物と人間とじゃ代謝が違うからやっても無駄じゃないですか」といってみた。
すると、彼女は渋面をつくって立ちつくすだけだった。
何のためにどのような実験をしているのか
その場では、あまり周囲の注目を浴びたくないという気持ちと、自分の質問の仕方が悪いと思い、それ以上ヤクルトレディにいうのをやめた。
彼女への質問は、動物実験をしているのか、しているのならどんな動物を使い、何に対してどのような実験をして、どのような効果をあげているのか、というようにすればよかった。
そうすれば、その実験について細かいことを調べて反論が出来たかもしれない。 もっとも、販売の前線にいる委託のヤクルトレディである。そんな質問をしても、意味がないかもしれない。
煩悶。
しかし、考えてみれば私がきちんと彼女に質問をして、彼女がヤクルト本社に聞いてみれば、あるいは彼女自身が動物実験に対して考えるきっかけになったのかもしれない。
そう思うにいたり、自分の至らなさを痛感。
以降、彼女は私には化粧品は勧めないし、たまについてくるヤクルト化粧品のセールスレディも私を避けている。どうも、動物実験という私の琴線に触れる話になると、後悔する言動や態度を示してしまうことが多い。
ヤクルト化粧品が動物実験をしていると分かったのだから、それにたいして情報を引き出すと共に、販売の最前線にいる人に動物実験について考えてもらうきっかけ作りをすればよかったのだ。
ちなみに、当たり前だがヤクルト化粧品のホームページには動物実験についての情報は載っていなかった。