Q3
よく新聞などで「動物実験で成功、○○病に光が…」という記事をよくみかけます。やはり人間の前に動物で実験しないといけないのでは?
A3
会報46号のトピックスで、マウスの実験では輝かしい「成功」と発表された抗ガン剤が、5年後には「副作用」により死者数十名になったと報道された事件を紹介しました。
動物実験の結果と患者への臨床応用の間には大きな難関があることは、誰よりも研究者自身がよく知っています。無数の医学研究のうち、学会発表に致るのはその何割かで、さらにそれが臨床に応用されるのはずっとわずかです。
動物実験のデータがそのまま人間に適用できないことの証明として、研究者やマスコミ報道に対して、最低次の基本データを明らかにするように求めることが大切です。(手紙や投書は大きな力です。)
(1)犠牲になった動物の数は?
動物を使った研究発表ではしばしば使用された動物の数さえ明らかにされません。実験の目的以外のストレスは感染症で死亡している例も少なくないと聞いています。
(2)どこから入手した動物か?
実験用に使われる犬猫の大半は、飼い主から離れたペットであり、猿・霊長類については森の中から捕獲された野生動物であるのに、どういう経路で入手したのか年齢も由来も書かれないのが普通です。このような実態も明らかにされるべきでしょう。
(3)動物に与えられた苦痛の度合いは?
実験動物はすべて人間の身代わりに使われます。とすれば、できる限り苦痛のない方法、苦痛緩和の対処法なども、同様に考慮されるべきでしょう。しかし、動物にそのような措置がとられているという話は聞いたこともありません。
もちろん、最も基本的な問題は、動物を使って閉鎖的な限られた研究室の中で得られた結果を、人間にそのまま当てはめることはできないという点にあります。しかし、このように動物実験のデータを作り出す前提自体がいいかげんなものであることは、それ以前の問題です。
基本的な条件の設定自体が誤りであるならば、その結果も間違っていることになります。また、密室化した研究室では、データのねつ造(自分たちの目的に都合のいいデータを意図的に作り上げること)も可能です。そして、それらのつけはすべて、臨床試験(人体実験)の患者に適用され、多くの薬害の被害者を生み出していくことにつながっていきます。
「動物実験が医学の進歩に必要だという考えをどこで得ましたか?」と尋ねると、ほとんどの人がマスコミ報道によると答えます。実際、○○の動物実験によって「○○病の治療の見通しができた」などと、あたかもすぐにも患者が救われるかのような書き方がなされています。このような報道は、動物実験万能の考えに基づく一種のイメージ操作であるように思えます。
動物実験の報道の裏にひそむ、実験の倫理的・科学的過ちを考え、明らかにしていきましょう。
(野上ふさ子)
※また、マウスの実験の段階などで「成功」が華々しく報道されるのは、 日本に特有の現象です。
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