Q11
“基礎研究”の価値とは何ですか。
A11
ほとんどの動物実験者が“基礎研究”を行なっていますが、それは直接臨床に適用されることを意図してさえいません。したがって自分の研究プロジェクトは人間の病気の克服に直接関連があるとこれらの研究者たちが主張するときには、一般市民はだまされているのです。そうした主張はたいてい、癌、エイズ、小児疾患など、世間の多大な関心をひくような、現在“ホット”な話題となっている病気についてなされます。
たとえ遠い将来のことになるとしても、研究が人々を助けるという可能性をある程度持つためには、解決すべき課題と関連のある問題を扱った実験で、しかも適切に遂行されていなければなりません。たとえば、電気ショックを受けた後でマウスやラットが闘争行動をするといった状況を見せる実験が無数に行なわれてきましたが、それは人間の臨床医学とは関連のない質問を設定して、関連のない答えを提供しただけです。その他の実験も方法が粗悪であったり、変数がきちんとコントロールされていないためにほとんど価値のないものです。一つの例をあげると、ペンシルバニア大学で10年以上にわたって行なわれ1985年に止めさせられた、今や悪名高い頭部外傷の研究があります。
研究者たちは科学の学位をもった人間だけが“基礎科学”研究の将来的価値を判断できるのだと、政治家や一般市民が考えるように仕向けることがよくあります。しかし、ほとんどすべての場合について言えることですが、もし研究がしろうとの眼からみて価値のないばかげたもののようなら、それは実際に価値のないばかげたものなのです。
基礎研究にも価値のあるものが若干はあることは明らかです。しかしこの世の中の資源は限られているわけですから、将来の世代を助けることになるかもしれないプロジェクトを支援するのか、それとも医学的な課題と関連があり現在人々を確実に助けることのできるプログラムにもっと資金を使うのか、ということを社会は選択しなければなりません。