となれば「表示指定成分」は、「動物実験をしていない」という表示と同様、免罪符のようなものとなり、それ以外の成分については、たとえ一滴の配合でも「○○配合」と表記し、消費者が喜んでとびつきそうな「植物性成分」や「自然派」等のアピールを堂々とパッケージに表記し、逆に不都合な成分は一切書かないという、消費者だましのテクニックが横行することになります。
利益の追及を目的とする「企業」にとっては、当然といえば当然の対応であるといえるでしょう。化粧品メーカー900社のうち、全成分を製品に表示しているメーカーは、アプリコットを含め数社しかないという現状がなにより雄弁に、このことを裏付けています。
全成分表示が為されないことには、生体抽出成分が配合されているかどうかさえ消費者には判断がつかず、また、化粧品被害が野放し状態になっているということでもあり、大きな問題です。
しかも表示成分はわずか100品目
化粧品に使用することが許可された原料は7000種、このうち香料約5000種を除いても2000種あまりもあるのに、表示が義務づけられた「表示指定成分」はわずか100品目しかありません。そして、この100品目だけを避ければ、『無添加化粧品』でまかり通ってしまうというのが、今の化粧品広告の落とし穴なのです。
「表示指定成分」がリストアップされてから、17年が経過していますが、この間に新たにリストに追加されたのは2品目(87年)だけ。次々と開発されてゆく合成原料で、まだ人間が使い始めて日の浅い、安全性も定かでない原料を「表示指定成分」に代えて使っても、『無添加化粧品』ということになってしまいます。
また、「表示指定成分」より防腐、乳化等の効果が弱く「表示指定成分」にはなっていない成分を多量に添加して、「表示指定成分」の表記を逃れるというテクニックもあります。化粧品の毒性、刺激性は当然ながら、その濃度、添加量に比例しますので、添加量を増やしておいて、『無添加化粧品だから安全』というコマーシャルは全くばかげた話しです。
さらに悪質な例では、「100%化合成分、添加物除去、無添加化粧品!」をうたい文句に派手な宣伝広告を出している「河合美肌研究所」の製品を成分分析したところ、フェノキシエタノールという合成防腐剤が検出されたという記事(船瀬俊介編著・三一書房『買ってはいけない化粧品』より)もあります。また同書には、国民生活センターで25種類の自然派化粧品をテストしたところ、なんと24品目から表示に記載のなかったパラペンが検出されたということも書いてありました。たぶん、これは氷山の一角で、市場には、上記のような「表示指定成分」逃れの騙しのテクニックを駆使していたり、悪質なところでは薬事法違反の「表示指定成分」無表記であったりする『無添加化粧品』が数多く出回っているものと考えられます。
100%安全な化粧品はありません
このように、全成分表示が義務付けられていないために、消費者の錯覚につけこむようなイメージ先行の『無添加化粧品』がブームになり、本当に、消費者のために為されるべき「全成分表示」要求の声がかき消されてしまっているというのは皮肉な現状です。
また、『自然派化粧品』にうたわれる「天然成分だから肌にやさしい」という論理もウソです。正しくは「天然成分だから合成成分よりは肌にやさしいであろう」と書くべきなのです。弊社では、「純粋な植物抽出成分であっても、アレルギーや接触性皮膚炎の原因となるものは多くあります。また、アレルギー抗原となる物質は人様々で、どこの誰にとっても100%安全な化粧品はありません。」ということを明言し、それぞれの抗原物質を避けて頂くためにも全成分表示をしています。
そうしなければ、消費者は、化粧品の使用で湿疹が出たり、かぶれたりという異常反応をおこした場合、自分がどの成分に対して異常反応をおこしたかを知ることができないのです。
化粧品の『無添加』や『自然派』については、公の定義があるわけではなく、いわば”自称”のようなものですから、ただ鵜呑みにするばかりでなく、本当に信頼できるメーカーかどうかを見定める目を持つよう心がけたいものです。