AVA-net News No.91
なぜサルを殺すのか−動物実験とアニマルライト
デボラ・ブレム著 寺西のぶ子訳 白掲社 3600円
動物実験は、「人の身代わり」として動物を医学研究に使うことです。医学は人の病気の研究や治療の開発を目的としているので、本来は人間を使うことが科学的には最適であるはずです。しかし、人体実験が許されないのは科学的理由ではなく、「倫理」的理由によるものです。つまり人には実験台にされない権利があるけれども、動物にはそれが認められていないからです。
従って、人の身代わりとなる実験動物は人に最も近い種であることが望ましいことになり、それ故に、これまで医学研究のために何百万という霊長類が自然界から捕獲されてきました。現在、サル、霊長類、類人猿は、生息地の破壊および実験用捕獲によってすべて「絶滅のおそれがある種のリスト」に掲載されています。
彼らが人と遺伝的に最も近縁の種であるということは、人と同じように痛みや苦しみを感じるばかりか、喜びや悲しみ、仲間とのふれあい、共感の能力なども共有しているという意味に他なりません。チンパンジーは人間と98.6%もの遺伝子を共有しており、ネズミやネコと比べれば、ほとんど「人」と言ってもいいでしょう。それなのに、ただ動物であるという理由で、いかなる生存権も保障されないというのは、確かに容認しがたいものです。
本書は、霊長類の実験に絞って、動物実験を批判する動物擁護団体と、実験研究者との双方にインタビューして、双方の主張を公平に紹介しています。それと同時に、最先端の科学研究のトピックも追跡して、とてもわかりやすい読みものになっています。動物実験を考える人々には必読の一冊と言えるでしょう。(原書は1993年に出版)
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