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News No.124
生命倫理ハンドブック
生命科学の倫理的、法的、社会的問題
菱山豊著 築地書館 2400円+税
著者は、文部科学省の前の生命倫理・安全対策室長で、現在は同省の学術振興局ライフサイエンス課長です。医科学研究の分野では、遺伝仕組換え、クローン動物、ES細胞、体外受精、脳死臓器移植などなど、科学だけでは判断できないさまざまな倫理的問題が発生しています。その現場で、いつ、どこで、だれが、どのような判断を下すのか、それは行政や研究者の一存でできることではありません。本書では、情報公開と参加のシステムの必要性を押さえています。(野上)
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News No.123
ビッグ・ファーマ−製薬会社の真実
マーシャ・エンジェル著 栗原千恵子・斉尾武郎=共監訳
篠原出版新社 2300円+税
日本人はとても薬好きの国民だと言われています。薬の効果を無条件に信じるように、洗脳されていると言ってもいいのかもしれません。しかし、その薬はどのように作られているのか、人の健康や生命に直接かかわる医薬品が、製薬会社の利益追求の道具となった場合に何がおこるのか、本書はその医薬品開発のぞっとする内幕をあますところなく明らかにしています。
医薬品を商品としてみれば、売れれば売れるほど儲かります。より巨額の利益を得るためには、高価な薬を大量に販売する必要があります。皆が元気で健康に暮らす社会では儲けになりません。ちょっとした体の不調にもすぐに薬を飲み、病気がなければ新たな病気を作り出してでも、薬を飲んでもらいたい。適度に不健康であることが歓迎され、一生薬を飲み続けるべき慢性疾患は大歓迎です。
こうして、不調−薬−病気−薬・治療−悪化−さらなる薬・治療という悪循環を作り出し、永久に製薬・医学業界が儲かる仕組みが作られてきました。
近年、薬害、医原病など、医薬品や治療行為によって病気になってしまうことが、一部の良心的な医師たちによって告発されています。しかし、事態は、人の良心に頼ることのできる範囲をはるかに超えています。
本書の前書を書いた福島雅典氏も良心的な医師の一人ですが、「薬害は科学的不正という人災によって被害が拡大」したと述べ、「モンスターのごとく肥大化した科学を奉じる共同体は、すでに善意によって制御しうる域を超えている。哲学のない科学は狂気(凶器)である。科学を妄信しトップ・ジャーナルを崇める状況は、何か、歪んだ宗教とでもいうべき様相を呈している」と断じています。
たしかに、本書を読めば、科学研究という真理の探究の行為が、手段を選ばない利益追求の道具、人の健康や安全をおびやかすおぞましい怪物になってしまったことを認めないわけにはいきません。著者はアメリカでもっとも権威ある医学誌の編集長であった女性で、この分野の専門家です。その内部から、これほど鮮明な製薬業界批判、ひいては医科学研究批判が現れたことは、もはやこの業界が「限界」に達していることの証なのかもしれません。(野上)
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News No.120
病気にならない生き方
新谷弘美 著 サンマーク出版 1600円+税
病気になってから、不安や恐怖に脅え、医者だ薬に世話になり苦しくつらい思いをするよりは、ふだんから病気にならないように細心の注意を払っていた方が、ずっと心身の負担も少なく、経済的にも安くつきます。こんなことはあまりに常識的で当たり前のことですが、これが意外にできるようでできません。人間は、目の前に危機がやってこないと対策を取ろうという気にはならないもののようです。
しかし、大地震は一生に1回遭うか遭わないかくらいなので、対策がないがしろになるのはまだ分かるとしても、不摂生な生活で病気になる率はほぼ99%確実です。
本書は、読んでみれば当たり前のことしか書かれていませんが、高名な医師が書いたということで説得力が高まり、100万人もの人が読んだのでしょう。ライフスタイルの見直しという、その当たり前のことに気付くために、あるいはそれを再確認するためにも、役立つと思います。(野上)
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News No.119
先端医療のルール−人体利用はどこまで許されるのか
ぬで島次郎著 講談社現代選書 700円
生殖医療、再生医学、異種移植、遺伝子治療などなど、現在、医学研究や医療の現場では次々と新技術が開発されています。しかしその一方で、生命をこれほど好き勝手に操作してよいのかという生命倫理に関する疑問を覚えることがしばしばあります。誰しもが患者になり得ることを考えれば、生命倫理の課題は決して他人事ではありません。
本書の著者は、生命倫理の問題の中に、動物実験をついての章を設け、いかなる法規制もない日本の現状に警鐘を鳴らしています。動物実験の延長に人間の医療があることを考えれば、これは当然のことなのですが、なぜか日本の研究者たちは、この両者を切り離し、動物実験の規制に反対し続けています。動物実験で行われていることは、直に人々の身にふりかかる問題であることを私たちはもっと知るべきだと思います。(野上)
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News No.114
がん患者よ、医療地獄の犠牲になるな
−迫りくる終末期をいかに人間らしく生き遂げるか
近藤誠、ひろさちや著、日本文芸社 838円+税
がん治療について定説を覆す見解を出している医師の近藤誠氏と、仏教学者の共著です。近藤氏は、医療機関に依存しないようにすることを説き、ひろ氏は病気への心構えを説いています。一見、医師と宗教家は相容れない立場にありますが、病気への対処は心身一如の考えで取り組むことによってうまくいくのかもしれません。
特に、ひろ氏が、多くの宗教者が沈黙してる中で、仏教の観点から臓器移植を批判しているのは注目すべきです。(野上)
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News No.112
こうすれば病気は治る−心とからだの免疫学
安保徹 著 新潮選書 1000円
◎人はなぜ病気になるのでしょうか。
著者は基礎医学の研究者(新潟大学大学院教授)ですが、たいへんユニークな見解をお持ちです。本書によれば、人は偶然に病気になるのではなく、ほとんどの病気は自分の行いや外部環境に原因があると述べています。とすれば、その病気を治すためには自分の日常生活の行いを反省し、またストレスの多い外部環境から逃れれば大部分の病気から快復できるということになります。
◎体の具合が悪くなるとすぐに薬を飲んだり病院に行ったりするのは、正しいことでしょうか。
自分自身の生活で病気の原因を作っているのだから、それを改めることなく薬や病院に頼りすぎるのはかえって病気をこじらせ悪化させることになり「ある意味では医療行為が病気を作っている」と勇気ある発言をされています。
◎ガンは本当に不治の病なのでしょうか。
過酷な過剰労働や心の悩み苦しみがガンを引き起こす主たる原因であり、ガンは治癒する病気であるとのこと。日常生活のストレスが免疫機能を著しく低下させている状態が問題であるにもかかわらず、そこに免疫を抑制する抗ガン剤を投与することによってよりいっそうガンを誘発させてしまうので、抗ガン剤は使用しないように勧めています。
◎ガンを治すための四ケ条
1,生活パターンを見直す(働き過ぎ、心の悩みを除く)
2,ガンの恐怖から逃れる(自然退縮が普通)
3,消耗する治療を受けない(抗ガン剤、放射線、大手術)
4,副交感神経優位にして免疫機能を高める(鍼灸、佳い食事、軽い運動、入浴、笑い)
もしこのような方法でガンが治るのであれば、あれほど大きな手術や抗ガン剤の副作用との闘い、何よりも「不治の病」に対する絶望的な恐怖を味わう必要はないでしょう。
シンプルでリラックスし、生き生きとした生活を心がけることで様々な病気から解放されるのですから、これほどいいことはありません。
(野上)
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News No.109
病気と闘うな 医者と闘え
富家 孝著 光文社カッパブックス 848円+税
国民年金の財源がなくなるということで消費税の値上げが取りざたされています。一方、健康保険の方も破綻しつつあるので、こちらもそのうち大きな問題となるのでしょう。1974年以降、国民医療費は毎年1兆円ずつ増えていき、今や年間30兆円を超える有様です。国家予算の半分にも達するような巨額な費用を医療費につぎ込まなければならないほど、日本人は病気やけがに悩まされているというのは信じがたいほどです。
これほどお金を食いつぶす国民皆保険制度が、本当に人々を健康にしてきたのでしょうか?医者や病院の数を増やし、新薬が次から次へと開発され、医療機器もどんどん高性能化してきましたが、それによって、本当の健康という安心を手に入れることができたのでしょうか。どうもそうではなかったようです。
現代社会では、医療も経済活動の一つなっています。とすれば、病気・病人が増えれば増えるほど、医者や医療産業はもうかることになります。ですから医療産業のシステムとしては、病人を増やすことが利益にかなうので、真剣に病気を治そうとはしなくなります。医学教育に人間教育、倫理教育がないということが言われて久しいのですが、そのような必要がない以上はいつまでたっても同じ事でしょう。これは個々人の医師の資質や良心の有無とは無関係の、システムがなせるしわざです。
国民は、国民皆保険制度に「守られ」てきた結果、自分で医療の質や内容を判断して選択していくという能力を失ってきました。そして、医者や医学について過剰な期待と幻想をいだき、それはほとんど信仰に近いものがあります。
本書は、医療制度に対する幻想をうちくだき、抜本的な医療制度の改革なしには、日本の患者は救われないと断言しています。
(野上)
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AVA-net News No.84
神になる科学者たち−21世紀科学文明の危機
上岡義雄著 日本経済新聞社刊 1800円+税
私たちが動物実験に関わる密室的研究の「情報公開」を求めると、研究者たちは「学会で公表されている」と答えます。学会で公表されるものは実験の一部にすぎませんが、研究者たちが何を目的としてどんなことをやっているかはうかがえます。しかし、その論文を読めば、大方の人々は(専門用語で粉飾されており一般の人にはほとんど理解しがたい世界ですが)、よくもこんな細かい部分的な事柄に熱中しているものだと驚き呆れるでしょう。
このような研究(あえて言えばバカバカしい研究)がなぜ許されるのか、誰がこんな研究の費用を出しているのか、誰が研究の成果を評価するのか、それが人の幸福にどれほど寄与するというのか、疑問を抱かないわけにはいきません。本書は、このような科学研究のシステムと、それの根拠となっている科学信仰ともいうべき思想を、解き明かしています。従来、核開発、化学物質汚染、巨大開発など、人類の存続を脅かす問題は、真理を探究する科学それ自身ではなく、それを悪用する政治や経済だという信じ込まれてきました。けれども、本当の問題は科学それ自身にあるのだとして、著者は、科学文明の問題を3つに要約しています。
- 科学は欲望を拡大・再生産する。
- 科学技術は解決すべき課題を増幅させる。
- 科学は人類存亡のカギを握っている。
医学研究のあり方を見ていると、まさにこの3つがあてはまります。毎年何千億というお金が医科学研究に使われていますが、患者の数はいっこうに減りません。医学が「進歩」すればするほど病気・それも難病の数が増えています。医薬品が開発されればされるほど副作用も増大しています。病人ではなく病気しかみない医療はどんどん機械的検査主義になり、思いやりや共感の念を失っています……数え上げればきりがないほどです。
あらゆるレベルで生命現象を物質化し、数値化・計量化しコントロールする医学研究。それは動物だけではなく人間自身もモノとして取り扱われる世界を意味しているのです。21世紀に、私たちはこんな世界を求めて生きていくのでしょうか。決してそうではないでしょう。20世紀の科学技術信仰の夢からさめるために考えるヒントを与えてくれる本です。
(野上)
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AVA-net News No.100
遺伝子を操作する−ばら色の約束が悪夢に変わるとき
メイワン・ホー著 小沢元彦訳 三交社 2800円
遺伝子組み替え食品が食卓にのぼるようになってきて、遺伝子組み替えは暮らしに密接にかかわる問題だということが多くの人に認識されるようになってきました。医療の分野でも遺伝子診断や遺伝子治療が開発されてきています。動物実験や畜産の分野では、ほとんど何の歯止めもなくさまざまな生命操作が進行しています。いま起こっていることを私たちが知ることがまず必要と思います。
生命の基本設計は遺伝子だとはいえ、遺伝子の発現は周辺の環境によって影響を受け、バランスをとりあっていくことがこれまでの進化の過程でした。人間のみが、他の生命の設計を支配していこうという考えは、いま地球規模で起こっている生物多様性への侵害をさらに拡大させるものでしかないということが、本書でよくわかります。科学研究の暴走を監視しチェックできるのは市民しかいないのです。
(野上)
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AVA-net News No.93
医者が患者をだますとき
ロバート・メンデルソン著 弓場 隆訳 草思社 1800円
動物実験は、人間にはできない非人道的な行為を、動物を使って、人の身代わりに行う行為です。動物実験(基礎研究、非臨床試験等と呼ばれる)である程度のメドが立つと、次は当然、人体実験(臨床研究、臨床試験等と呼ばれる)に移ります。ところで、動物を意識も感情もない単なる機械的反応を引き起こす材料としか見ていない研究者たちが、次に人間に対しては親切で思いやりのある態度で接すると信じ得る根拠がどこにあるでしょうか。大学病院や巨大医院では、人々はまるで実験動物のように取り扱われているのではないでしょうか。もし私たちが、医学研究の名の下に動物に対して行われていることを知れば、どうしてそのような恐ろしい組織に自分の命を預けようと言う気持ちになれるでしょうか。
病気になったら病院に行けばいい、薬を飲めばいいという考える前に、病院とはどういうところか、その薬はどのように作られているのか、(健康なときに)よく考えておく必要があるようです。現代人が、病院と医薬品に対しては、何ら疑いを持たず有り難がって受けて入れている様は、「信仰」に等しいと、本書は断言しています。患者の側に立って現代医学の過ちをとことん批判している本書は、アメリカで20年以上前に刊行されずっとロングセラーを続けています。理想の社会は医師のいない社会であると言う本書は、人々の目を覚まさせるインパクトを持っています。ぜひ、お読み下さい。同じ出版社から<女性編>も出ています。
(野上)
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AVA-net News No..91
悪魔の生物学−日米英・秘密生物兵器計画の真実
エド・レジス著 柴田京子訳 山内一也監修 河出書房新社 2200円+税
昨年、アメリカで炭疸菌が郵便物を介して新聞社や議会に送られ大騒動になった事件がありました。犯人像を考えるとき、動物を殺傷するこの細菌を生物兵器として研究開発した集団(軍事施設)のことが思い浮かびます。戦前に残虐非道な人体実験をしていた日本の陸軍731部隊もこの炭疸菌を兵器として研究していました。そして戦後にはアメリカ軍が生物兵器の開発に巨額の資金を投入してきました。生物学の研究は、方向や目的が変わると、いかに暴力的・殺人的なものとなるかがよくわかります。だからこそ、生物医学に係わる研究に対しては、第三者機関による監視や、国民への情報公開がなされなければならないのです。いま実験室の中では、細菌やウイルスの遺伝子組み替え実験も盛んに行われています。密室の中で行われる「科学の暴走」をくい止めなければ、いつかおそろしいしっぺ返しが来ると思います。
(野上)
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News No. 98-99
異議あり!生命・環境倫理学
日頃から、生命倫理学、環境倫理学が現実に対してほとんど何の効力も持たないことに失望感を抱いていたので、本書では切れ味のよい批判が展開されているのかと期待していたのですが、一読してがっかり。従来の倫理学と同様、机上の空論をもてあそんでいるだけで、いったいどこに「異議」があるのかといえば、臓器売買やクローン人間にとやかく異議を唱える生命倫理はいらない、エコロジーはファッションで、環境保護には裏があるといった主張を述べているにすぎません。
一般の人々にとっては、医療や食生活、ライフスタイルといった毎日の具体的な生活の中で起こる現実、しばしば苦痛や悩みといった身体的な感覚を伴う現実に直面して、生命倫理や環境倫理的な問題と出会います。またこの世の中に痛みや苦しみがあることが自らの苦しみであるということもあります。「なぜ人を殺してはいけないのか」という問いに答えることのできない倫理学者もいるそうですが、殺される側の身になるという想像力が欠如している人が倫理について考えること自体ムリがあるでしょう。
現在の倫理学は(本書も含めて)、現実の一部分を切り取って考察するだけのいわば「実験室の倫理学」です。実験心理学が現実の心理的苦悩に何ら対処できないように、あるいは動物実験の結果を臨床に応用できないように、実験倫理学が現実に還元できないというところに、無力感があるのです。著者はそのことに気が付かず、だから倫理学は不要と主張しているかのようですが、となれば当然著者自身もその仲間である倫理学者自体も不要ということになるでしょう。
(野上)
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