ALIVE、AVA-net、生きものSOSの3団体が毎年実施している全国動物行政アンケート(回答率100%)について、このほど平成15年度分を取りまとめましたので、概要をお知らせいたします。調査では、従来の犬猫の殺処分数等の統計に加え、犬猫以外の動物の取扱いについてや、予算・人員への満足度、民間団体との連携などの内容や、来年の動愛法改正に関しても調べました。
●犬の殺処分数、さらに減少
平成15年度の犬猫殺処分数は、犬160,209 匹、猫275,628 匹、合計439,837
匹となっています。これは当会で行政アンケートを取り始めた平成9年度を100%とした場合の約65%という数字です。この処分数が減少は、市民の意識の向上や行政の努力などさまざまな原因が生み出した結果と言えるでしょう。
この結果は、犬の殺処分数が毎年減少していることに起因するもので、犬に限れば、このままの減少が続けば10年以内に殺処分数ゼロの日がくるのも夢ではないかもしれません。(ただし、犬の繁殖業者などが自分で処分している数はここには含まれませんし、実態を把握するのも困難です)
→ 犬猫の処分数と一般譲渡数の推移を知るには
●猫の処分数は変わらず
猫の殺処分数は平成9年度からそれほど変化を見せていません。(平成9年度を100%として平成15年度は約91%)
平成15年度、1万匹以上の猫が殺処分された自治体は東京都と千葉県の2カ所ですが、特に地域猫活動が活発に展開されている東京都で、なぜ市民の努力と相反するような結果が出てしまうのでしょうか。原因の一つとして、猫が犬に比べ安易に飼育が始められ、安易に飼育が放棄されることがあげられます。このため、地域猫活動の成果があがりにくくなっているのでしょう。また、地域猫活動が行われている地域に猫が捨てられるという皮肉な現象も起きているようです。
今後さらに行政と市民のタイアップを図り、今いる以上の野良猫を増やさない方策を推進してくことが必須と思われます。こうした状況を反映するように、動愛法の再改正に際して野良猫、捨て猫対策を望むと回答した自治体が少なからずありました。猫の去勢不妊手術に補助金を出している自治体もその数を増やしていますが、このシステムがより効果的に運営されるよう、市民と行政の協働が望まれます。
●犬猫処分数が1万頭以上の自治体
全国で犬猫合計殺処分数が1万頭を超す自治体は、12年度28都道府県、13年度23、14年度18と減ってきましたが、15年度は17でした。このうち、最も殺処分数の多いワースト6都道府県はほとんど変わらない状態です。人口比率で見るとまた状況も違ってきますが、どちらもワースト上位に入る都道府県については今後の努力に期待したいところです。
※ 殺処分数の推移グラフに関しては「実験払い下げについて」の項参照。
●処分数に占める子犬、子猫の割合
引き取り収容数に関して、子犬・成犬もしくは子猫・成猫に分けて統計をとっている自治体のみを対象にした分析になりますが、15年度の犬の引き取りのうち、子犬と成犬は約半々となります。近年多くの自治体が一般の家庭への譲渡をすすめており、譲渡される犬の7賄以上が子犬となっています。そのため、殺処分されるのは必然的に成犬が多くを占めることになります。
猫の場合は、持ち込まれる猫の8割以上が子猫(生後3ケ月未満)となっています。犬と比較して、猫の場合は一般譲渡が少なく、引き取られた子猫、成猫の割合そのまま殺処分の方へ回されます。殺処分される猫の約8割が子猫であり、この割合も過去まったく変わっていません。猫の殺処分数もこの10年以上、ほとんど減少していないのも問題です。
この最大の理由は、やはり一般的に不妊・去勢手術の不徹底が原因であると言えます。不妊去勢の普及により少なくとも20数万匹の子猫を殺処分しなくてもすむのだということが、広く理解されてほしいと思います。
●犬猫以外の動物について
今年(H16)に特定外来生物法が成立しました。これによると、野外に捨てられると生態系への被害などを及ぼすおそれのある種が指定され、その種については現在飼育中の動物は許可制となり、新たな飼育は禁止されます。来年の施行直前に、外来ペットの遺棄や行政への持ち込みが増えるのではないかという懸念があること、犬猫以外の動物の引き取りと一般譲渡も行ってる自治体があることなどの理由から、今回のアンケート調査では、犬猫以外の動物の取扱いについて初めて設問を設けました。結果としては、「一切応じられない」と回答した自治体が50で、ほぼ半数という結果となっていますが、自治体によって事情はまちまちとも言え、エキゾチックアニマルの飼育が広まっている現在、行政としても何らかの方策を立てるべきではないかと考えます。
●行政に寄せられる苦情内容
苦情の統計に関しては、独自の分類方法に基づくデータを提出した自治体が複数ありました。それぞれの自治体が工夫されていることがよく理解できましたが、こうしたデータのほとんどが、鳴き声、糞の放置など動物から受ける人間の被害に関してであり、動物虐待や飼育怠慢・劣悪飼育などの動物側が受けている被害については、データの取り方が明確ではありませんでした。前者のデータ収集は当然必要ですが、動物の側に立ったデータ収集も是非行っていただきたいと考えます。
今回、苦情件数を対象人数とのべ件数に分けたのは、同じ市民への苦情が全体の苦情件数を引き上げているケースが多いのではないかと推測したためです。残念ながら、この部分のデータを正確に収集している自治体が少なく、この推測が正しいものであったかどうかの判定はできませんでしたが、犬猫の引き取り数が一部のリピーターにより押し上げられていることを考えれば、この分類法が無駄ではないことは確かでしょう。
●苦情への対応について
特に地方で目立ったのが、犬の放し飼いと、結果として起きる田畑への被害に対する苦情でした。放し飼いは野良犬を増やすことにもなり、行政による捕獲作業などを増やす要因にもなります。行政がこうした苦情に関するデータを地元住民へ公開し、放し飼いをしている住民へ意識変化を促すというのも一つの方策でしょう。
また今回も、措置命令といった非常に厳しい対処法で望んだ自治体がありました。重大な犯罪者が、幼少時や犯罪を犯す以前に動物虐待を行っているケースが非常に多いことは、広く知られるようになっています。9割近い国民が治安に不安を感じている現状を考えた時、身近な犯罪である動物虐待の芽を小さな内に摘むことは、決して無駄ではないはずです。行政が、動物への虐待や不適切な飼育を社会不安の確実な要因と捉え、時には厳しい姿勢で臨むことを今後も期待します。
また反対に、未届けの動物取り扱い業者に対して、「口頭で指導後、届けが出されたため未届け扱いとはしていない」と回答された自治体がありました。こうした悪質業者に厳しく処することも、消費者保護という観点に立てば、重要な市民サービス業務でしょう。
●動物愛護推進員について
多くの自治体が動物愛護推進員を設置、あるいは設置予定としています。これは市民と行政の協働という時代の流れから見れば当然のことでしょう。少数ながらいくつかの自治体が、予算も人員も不足しているとしながら、愛護推進員の設置を考えていないと回答しています。予算や人員が不足しているからこそ、民間の推進員の協力が必要なのではないでしょうか。
制度そのものがうまく機能していない自治体もあることは確かですが、制度の運用は時間と労力をかければおのずと改善されるでしょう。ですが、その制度がなければ、市民と行政の協働が成立さえしません。官から民へというのは、最早避けては通れない時代の流れであるはずです。特に、動物行政といった地域密着型のジャンルは、地元住民の理解や協力あってこそ成り立つものです。行政は、市民に任せられることは積極的に任せていくべきだと考えます。動物愛護の啓発普及、譲渡先探しなどといったことは、フットワークの軽い市民が市民同士で知恵を出し合いながら展開する方が、効果を上げることでしょう。
●殺処分方法
現時点では、依然としてガス室での殺処分が大半を占めています。しかし近年、麻酔薬の投与のあと、静脈注射による処分に変更する自治体が序々に増えています。かつて犬猫の殺処分数が100万匹を超えていた当時は、ガス室という大量処分機が必要だったのかもしれませんが、現在これだけ処分数が減少してくると、ガス室は無用の長物と化しつつあります。またガス室自体が老朽化しており、新しく購入するとなると1000万円以上もすることから、財政難の自治体では設備投資も難しくなっています。
殺処分数を減らし無くすることを目標としている以上、今後建設される愛護センター等ではガス室ではなく、麻酔薬による注射処分の方法を選択する方が、はるかに低コストであり、また動物にも苦しみを与えない方法となってきます。ガス室による大量殺処分時代はもう終わろうとしており、行政は処分方法の転換をはかるべきと考えます。
●処分費用について
今後、犬猫の引き取り、処分に関する費用は飼い主負担を原則とすべきであり、現在静脈注射による処分を無償で行っている自治体はなおさら、有料にするべきでしょう。「有料にするとそのへんに捨てる飼い主が増える」という意見もありますが、動物を捨てる行為は罰金刑が科せられる犯罪で、これに対しては警察や動物愛護推進員などの活動で抑止させていけばいいことです。一方、殺処分は市民の税金で行われているものであり、適切に動物を飼育している市民や、動物を全く飼育していない市民の税金も、多分に使用されているわけです。このことを考えれば、自己都合で飼育動物を処分する市民は、処分費用を自己負担するのは当然のことと考えます。
●予算、人員について
今回のアンケートでは、予算・人員についての満足度をうかがってみました。予算については、約半数の自治体が十分でないと回答、人員については約60%の自治体が不十分と回答をしています。また、希望する予算規模の記入があった自治体に関しては、平均して現行予算の約41%増額を希望しており、苦しい財政事情の中での業務実態がうかがわれる結果となりました。
●民間団体との連携について
2004年に環境省が行った動物愛護団体に対するアンケートの項目を参考に、逆に地方自治体側が民間団体と連携をとる場合、どのテーマに関して望ましいと思っているかのアンケートをとりました。その結果、「適正な飼育方法補普及活動」に関しては98%の自治体が望ましいと回答をしており、第一位となりました。続いて「犬猫の譲渡事業」「不妊去勢普及事業」がそれに並びますが、愛護団体側が第3位に挙げている「虐待防止普及事業」に関しては、行政側が順位を下げる結果となっており、やや温度差を感じます。(回答パーセンテージ見ると行政の方が回答パーセンテージが全体的に高くなっていますが、これは設問の設定のニュアンスに違いがあったためと思われます。)
●動物収容施設の新築・改築について
全体の4分の1ほどの自治体で、愛護センターの設立等、なんらかの予定がある反面、新築・改築の予定のない自治体も数多くありました。それら予定のない自治体のうち68%の自治体が、「予定はないが改築が必要」と回答をしており、施設の老朽化の問題が浮かび上がる結果となりました。
●実験払い下げはいよいよ全廃へ!
行政による犬猫の実験払い下げは過去20年、毎年減少しつつありましたが、そのスピードは更に加速化しています。平成14年度に1,741匹(犬1,579匹、猫162匹)だった実験払い下げ数が、15年度は734匹(犬623匹、猫111匹)と大幅に数を減らし、いよいよ1千頭を切りました。14年度に払い下げの実績がある自治体の中で、15年度中に払い下げを中止した自治体は9自治体(旭川市、青森県、岩手県、栃木県、群馬県、新潟県、岡山県、福岡県、長崎市)であり、また「廃止予定あり」としている6自治体(仙台市※1、岡山市、鳥取県、熊本県、熊本市※2、鹿児島市)のうち2自治体(仙台市、熊本市)も実質払下げ数ゼロとなっているため、平成16年度現在払い下げを行っているのは、北海道(旭川医大)、鳥取県(鳥取大学)、岡山市(岡山大学)、熊本県(熊本大学)の4自治体のみとなっています。このうち北海道を除く3県は平成17、18年度に廃止の予定があり、全国でも唯一、北海道内の一部の自治体のみに払い下げ中止予定がないという状況になってきました。1980年代のピーク時には年間10万頭以上あったと思われる動物実験払い下げですが、この悪習は、あと2、3年のうちには全国的に終息することになるでしょう。
→詳細 犬猫の実験払い下げ全廃、もうすぐ
●動物愛護法の再改正に望むこと
動物愛護管理法の再改正が、2005年の国会にかかる予定です。法改正に自治体として何を望むかうかがったところ、約半数の自治体が動物取り扱い業者の規制強化を挙げました。次いで虐待の定義、市民と行政の協力関係の推進と続きます。一部の悪質な動物取り扱い業者は、行政にとっても市民にとっても、そして何よりも動物にとって、諸悪の根源と言っても過言ではないものです。現在、ペット産業界内部からも動物業者への規制を求める声が出ているのは、こうした悪質業者との差別化を図ることで業界全体の信頼性を高め、ひいては利潤増加につなげたいという考えがあるからでしょう。
また次に多かった虐待の定義を求める声ですが、これは現場で動物問題に対処する行政のみならず、動物問題に関心を寄せる市民にとっても、最低限必要なツールと言えます。現行法の定義では虐待の意味が余りにもあいまいなため、行政に通報しても判断できないことが余りに多いのです。劣悪な飼育状況を通報した市民に対して担当職員が「まだ(動物は)死んでいないから(虐待にあたらない)」という対応をされることがしばしばです。
児童虐待と同様、何よりも虐待死に至るまえに行政と民間が協力して防止できるようにするためにも、虐待の定義をより具体的にする必要があります。法改正では虐待の定義の拡大とともに、虐待防止のガイドライン作りを盛り込むことも必要ではないかと思われます。
●自治体別の詳細は、報告集をご覧ください
→平成15年度、動物行政アンケート調査報告