平成20年7月12日
厚生労働省 医政局 国立病院課
国立病院機構管理室 業務評価係 御中
国立病院機構の平成19年度における業務等についての意見
1、情報公開について
本事業報告書では、第1に「国民に対して提供するサービスその他業務の質の向上に関する目標を達成するためにとるべき措置」を掲げているが、その中に情報公開に関する記述が欠落している。納税者であり施設の利用者である国民が情報開示請求を行った場合には、隠すことなく迅速に必要な情報を開示する事を明記していただきたい。
平成17年6月に「動物の愛護及び管理に関する法律」が改正され、実験動物福祉の原則としての3R(動物の苦痛の軽減、使用数の削減、動物を使用しない方法への代替)が明記された。これに基づいて平成18年に環境省が実験動物の基準を制定し、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省がそれぞれ動物実験の指針を策定した。
当会では、今回新たに設けられた国の指針が実際に動物実験の現場でどのように遵守されているかを知るために、平成19年8月に、国立病院機構の中で動物実験を実施している12機関に対して、動物実験に関する情報の開示請求を行った。それによって判明した問題点は以下の通りである。
2、 情報開示請求手続きについて
@開示方法について
請求方法や請求書フォームの掲載などを、HPに記載していない機関がある
A情報公開担当者について
開示に関する手続きの手順など基礎知識のない担当者が多い。窓口の対応が悪く、何回連絡しても手続きが進行しない機関があった。
B開示決定通知書について
請求書の受理日から1ヶ月以内に決定通知をする義務があるが、延長する機関が多い。情報公開を受けるのが初めてという機関もあった。
C開示文書のコピー代支払いについて
手数料の納付後、再度コピー代を納付するシステムであり、手間、時間、送金費用が二重にかかる。
3、 動物実験計画書の不存在ないし未整備
情報公開を行うためには、公開すべき情報が記録として存在しているという前提があるが、実際に動物実験を行っていながら書類を作成していないとい機関が3機関もあった。
厚生労働省が定めた実験指針に則り、記録文書が作成されるべきだが、指針が定めている事項を記載していない実験計画書が多数存在する。
また、各研究機関において統一した書式がなく、記録の取り方もまちまちである。文書をまとめて集計を取るといった作業もなされていないことは、問題である。
動物実験機関が必ず保管すべき以下の文書でさえ、存在していない機関がある。
@実験動物種ごとの使用数一覧、A実験動物種ごとの飼育数一覧、
これについては、実験動物の種類、数、購入先、使用数賭等について、統一的な統計をとるための書式が存在していない。機関によって、納品書しかないようなところもある。
B動物実験計画書
国の指針に則った実験計画書が存在していないのが5機関も存在した。
C実験終了報告書または評価書
当該報告書または評価書が存在したのは4機関のみで、その他の機関には文書自体が存在しなかった。
D動物実験委員会の名簿
委員長以外は墨塗りが2機関、氏名のみ(役職なし)が1機関、非開示が2機関、7機関において委員会の名簿が存在しなかった。
E動物実験委員会の議事録
8機関において、動物実験委員会の議事録が存在しなかった。議事録があるのに実験計画書が存在しない機関もあった。
4、 非開示及び一部非開示の根拠不明
文書の非開示、または一部非開示が多いが、その根拠が不明である。
例えば動物実験委員会の設置は厚生労働省の指針に定められており、計画書の審査の透明性を図る観点から委員名を公開するのは当然のことだが、委員長以外の委員は非開示としたり、全委員を非開示とするなど、はなはだ不透明であり、その根拠も不明である。これでは、実験の透明性、客観性、妥当性さえ明らかではないことになる。
5、 実験計画書の中味(機関ごと)
実験計画書が存在した8機関のうち、
@ 研究者名を公開したのは1機関のみで、全員を黒塗り(非開示)としているのは4機関、責任 者名のみを公開したのが3機関。なぜこのような差異があるのか不明である。
A 実験期間が書かれていないのが1機関、期間の日付がないのが2機関あった。
B 実験の目的が書かれていたのが1機関のみで、目的の記載がないのが1機関、全部黒塗り が4機関、意義・概要のみが2機関だった。
C 実験の方法についてはほとんどが非開示で、記載がないの機関、黒塗り、概要のみで黒塗 りとしたところがほとんどである。
D 代替法の選択については、6機関が記載なし。
E 使用動物種については、4機関が記載なし。
F 個体識別については、すべての機関がしていない。
G 動物の入手先は、すべての機関が記載していない。
H 使用動物数については、2機関のみが記載、1機関が概数のみ。
I 使用匹数算出の根拠について記載があるのは1機関のみ。
J 飼育場所・環境については、6機関が記載なしか不明確。
K 苦痛のカテゴリーについては、5機関が記載なし。
L 苦痛の軽減・排除法について、すべてで記載なしか極めて簡易な選択式や使用麻酔名のみ。そのうち1機関は黒塗り。
M 使用麻酔・薬品名については、記載したのは1機関のみ。
N 安楽死の方法については、ほとんど記載なし。
O 重複実験の有無については、1機関のみが記載。
P 申請日と承認日については、記載がないか片方しかないのが5機関。
Q 実験が、新規か継続か修正しての継続かを区別する欄については、5機関に記載欄がない。
R 実験員会のコメントについては、コメント欄があったのは1機関のみ。7機関がコメントなし。
S 実験終了報告書については、4機関が記載なし。1機関が論文のみとしている。
その他:東京医療センターは、極めて簡易な書式である。災害医療センターは、A4用紙一枚のきわめて簡易なもの。久里浜アルコール症センターは手書きメモ程度のもの。申請書といえるのか、疑問である。
6、要望事項
以上のように、国立病院機構においては、厚生労働省が定めた動物実験の指針に従っていないことが明らかである。直ちに法令及び指針等の周知徹底及び遵守について改善を図るべきである。
3Rの一つである「実験動物の苦痛の軽減措置」は法律で定められている事項であり、この実効性を高めるために、動物の福祉の観点に立ち、普及啓発をすすめるべきである。
3Rの一つである「実験動物の使用数の削減」を進めるためには、動物の納入数、飼育数、使用数、処分数の実態を把握し、それに基づいて年度ごとの削減計画を立てるべきである。
3Rの一つである「動物を使用しない方法への代替」を促進するために、代替法に関する技術開発、国内外の情報の収集および提供を国レベルで促進するべきである。
そもそも臨床の患者を診察している病院や医療センター内で動物実験を行う必要性があるのか疑問である。このような施設では、実験動物施設の設置や運営管理、管理責任者の研修等も充分とはいえず、動物の取扱いに知識を持つ獣医師を配置することも難しい。
さらに、不特定多数の患者が出入りする病院内の施設で動物実験を行うことは、衛生や感染症対策の観点からも問題がある。
厚生労働省は国立病院機構における動物実験の実態を精査し、速やかに無益で不必要な動物実験から削減および廃止を進めるべきである。
AVA-net(動物実験廃止・全国ネットワーク)
代表 野上ふさ子
⇒独立行政法人国立病院機構の業務・マネジメント等に関する意見募集の結果