つくば市に、経済産業省の産業技術総合研究所(産総研)つくばセンターという巨大な研究機関があります。その第六事業所の6-13棟、年齢軸生命工学研究センターの3階部分にある動物施設が、設計上のミスにより3年間も未使用だった問題が今年の5月に浮上しました。
この問題に関し、谷博之参議院議員が国会で質問主意書※を提出。その内容によれば、産総研つくばセンターでは、カルタヘナ法(遺伝子組換え生物規制法)違反や動物愛護管理法違反が指摘されており、経済産業省は、同施設において本年三月の時点でカルタヘナ法上の表示義務違反があったことを認めているとのこと。
これらの問題から、この質問主意書では動物実験全般について国の対応を問う内容となっていますので、一部抜粋してご紹介します。その答弁からは、現在日本という国家が動物実験についてなんら把握をしておらず、また、いかにやる気がないかというがわかるのではないかと思います。
※質問主意書とは?
国会会期中に、国会議員が国政一般について内閣に文書で質問をするもので、国会法に基づいた公式な手続きです。議長が承認した質問主意書は内閣に送られ、内閣は7日以内に答弁しなければなりません。答弁は政府統一見解としての意義を持ちます。議員を通じて国民に明らかにされる情報であるともいうことができます。質問主意書・答弁ともに衆議院・参議院両院のホームページで全文を読むことができます。
■谷博之参議院議員質問主意書より抜粋
●動物実験全般について
【問】国及び独立行政法人の保有する施設で、日本学術会議の「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」の第一定義にある「動物実験等」を実施している施設の名称及び所在地を明らかにされたい。なお、これらの施設が届出制ではないことは承知しているので、答弁に当たっては可能な限り把握に努められたい。
【答】「動物実験等」の実施状況を把握するためには、各府省及び各独立行政法人において、本年6月に日本学術会議が取りまとめた「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」(中略)の定義に該当する「動物実験等」を行っているかについて調査する必要があるが、そのためには膨大な作業を必要とすることから、お答えすることは困難である。
【問】日本学術会議参加の学会のうち、日本学術会議の「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」の第一定義にある「動物実験等」を実施している会員を有する学会の名称を明らかにされたい。
【答】日本学術会議の協力学術研究団体(中略)については、日本学術会議においてその活動内容を詳細に承知する立場になく、お尋ねについてお答えすることは困難である。
【問】(中略)施設及び学会に対し、環境省、文部科学省、厚生労働省及び農林水産省が定めた基本指針等を遵守させるために、それぞれどのような周知徹底の方策を予定しているか。また、日本学術会議は「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」を遵守させるために、どの省庁の協力を得て、どのような周知徹底の方策を予定しているか。
【答】御指摘の4省においては、それぞれの省が定めた基本指針等を、それぞれの省のホームページに掲載するとともに、関係機関へ通知する等、周知徹底を図っているところである。また、日本学術会議においては、ガイドラインを公表し、ホームページに掲載するとともに、協力学術研究団体に対して電子メールを配信し、周知徹底を図った。御指摘の4省においても、関係機関に対しガイドラインを送付し、周知徹底を図っている。
【問】経済産業省は、環境省、文部科学省、厚生労働省及び農林水産省が定めた基本指針と同様の指針を策定する予定はあるか。ないならばその理由を示されたい。
【答】平成18年6月に日本学術会議において策定されたガイドラインでは、適正な動物実験の実施に向けて、独立行政法人、企業等を含む各機関等の自主的な取組が求められていることから、経済産業省としては、現時点では、御指摘のような指針を策定する予定はない。
●カルタヘナ法について
【問】国及び独立行政法人の保有する施設で、カルタヘナ議定書担保法上の遺伝子組換え生物等の第二種使用等を行っている施設の名称及び所在地を明らかにされたい。また、このうちカルタヘナ議定書担保法第12条に基づく主務省令で定める拡散防止措置が取られている施設はどこかを明らかにされたい。なお、これらの施設が届出制ではないことは承知しているので、答弁に当たっては可能な限り把握に努められたい。
【答】(略)拡散防止措置を執っている施設については、調査に膨大な作業を必要とすることから、お答えすることは困難である。
●産総研動物施設の不具合について
【問】産総研が本年6月9日に私に提出した資料によると、本年3月27日に産総研動物実験委員会委員が行った「産総研つくばセンターの動物飼育施設の外部有識者による実地調査」において、第6事業所の他に、第2事業所、第4事業所、東事業所において、表示義務違反をはじめとする数々のカルタヘナ議定書担保法違反が指摘され、産総研に報告されていたという。
1 この調査は、どのような背景があってこの時期に行われたのか。また、当時なぜ文部科学省にこの事実を通知しなかったのか。既に通知しているならその時期も併せて示されたい。(2以下略)
【答】1 産総研によれば、産総研つくばセンターの動物飼育施設の実地調査は、平成17年4月に策定された産総研の動物実験取扱要領に基づき、動物飼育管理の適正化の観点から、動物飼育施設を指導及び監督する目的で平成18年3月27日に行われたとのことである。
産総研によれば、この実地調査により、一部の動物飼育施設において、カルタヘナ法に基づく表示義務違反の事実が判明したが、カルタヘナ法においては表示義務違反があった場合の報告を義務付けられておらず、また、速やかに是正措置を講じたことから、文部科学省への報告を行わなかったとのことである。
文部科学省に対しては、平成18年6月2日に、表示義務違反があった旨の報告が産総研から行われている。
【問】産総研つくばセンターの通称「倉地ビル」と呼ばれる6-13棟(以下「倉地ビル」という。)は、2000年度の国の補正予算34億1000万円(うち設計予算1億3000万円)をかけて建設され、2003年3月28日に完成したと承知している。
倉地ビルに要した建設・設計予算のうち、SPF飼育室にかけた金額はいくらか。また、三年間も使わなかったことは国費の無駄遣いではないかと考えるが、いかがか。
【答】6-13棟の建設及び設計に要した費用からSPF飼育室にかかった費用を抜き出してお示しすることは、困難である。
6-13棟については、施工上の不具合の改善を図るために施設使用を一時休止し、その後、外部有識者の指摘を踏まえ、施設の高度化に向けた工事を併せて進めているところである。
【問】倉地ビルのSPF飼育室の設計は、2001年5月、国土交通省が伊藤喜三郎建築研究所と契約して始められたと聞く。
この設計において、SPF動物の飼育の専門家の関与はなかったと承知しているが、その理由はなぜか。
【答】SPF飼育室の設計を行うに当たっては、SPF飼育室に関する知見を有する研究者以外に、御指摘のマイクロベントシステムの設置業者、実験設備メーカーや設計業者からも意見を聴いたことからSPF飼育室における環境を適切に確保できると判断したものである。
【問】6月6日に産総研から私にあった回答では、「SPF機能調査小委員会」では、SPF動物の飼育の専門家が「(倉地ビルは)このまま施工上の不具合を補修しても、設計上の問題は解決せず、SPF動物の飼育は困難である」と指摘があったという。これは、「設計図面通りに施工したとしても、求められているSPF動物の飼育室としては条件が満たされていなかった」という意味に理解してよいか。
【答】産総研によれば、御指摘の動物飼育の専門家の指摘は、「設計図面通りに施工したとしても、求められているSPF動物の飼育室としては条件が満たされていなかった」との趣旨の指摘ではなく、管理体制等の面から汚染防止能力を強化したより高度な施設とすべきであるという趣旨の指摘であったとのことである。
【問】現在2億8000万円の国費を投じて産総研が行っている倉地ビルの「高度化」工事について質問する。 もしSPF飼育室以外には設計上の不具合がなかったのであれば、「高度化」工事にかけている国費2億8000万円は、「SPF機能調査小委員会」に参加したSPF動物の飼育の専門家が当初の設計段階から参加していれば必要のなかった費用であり、国費の無駄遣いであると認識するが、いかがか。
【答】産総研によれば、産総研による6-13棟の高度化改修工事は、設計上の不具合を改修する工事ではなく、管理体制等の面から汚染防止能力を強化したより高度な施設にするために行っているものであるとのことである。
【問】産総研の倉地幸徳年齢軸生命工学研究センター長は、倉地ビル完成後現在までに、財団法人動物繁殖研究所の2階にあるSPF飼育室を借用していた事実があるか。その費用が国費から支出されているのであれば、まさに税金の無駄遣いであると考えるが、(財)動物繁殖研究所側に産総研が支払った借用料は現在まで総額いくらか。
【答】産総研によれば、産総研の年齢軸生命工学研究センターは、6-13棟が完成してから現在までの間、財団法人動物繁殖研究所二階にあるSPF飼育室を借用しているとのことである。
産総研によれば、これまで産総研が(財)動物繁殖研究所に対して支払った借用料は、平成16年1月20日から平成18年7月31日までの間の総額で1億3909万6394円であるとのことである。
■報道
産総研の工事問題については、その後バイオ専門のニュースサイトで報道がなされ、経済産業省は、設計事務所側にも産総研側にも「実験動物飼育施設に関して熟知している人がいなかった」と回答しています(日経バイオテクノロジージャパン)。設計会社を決めたのは、公募を行った国土交通省であり、建物は、国土交通省が建設後に産総研に引き渡す形の契約でした。
動物実験施設自体が巨大な無駄と言えば無駄ですが、巨額の税金を投下して行われる動物実験に対して、法制度にしろ運用にしろ、国の姿勢があまりに不誠実であることが、やはり一番の問題ではないかと感じます。
※全文は、参議院サイトの「質問主意書情報」をご覧下さい。
http://www.sangiin.go.jp/
第164回国会・提出番号79「独立行政法人産業技術総合研究所等における動物実験施設に関する質問主意書」