AVA-net 115 (2005. 11-12) より
濱井千恵(御薗治療院代表、鍼灸師)
風邪は万病の元
腰痛や首の痛みで整形外科に行くと、脊椎の○番に歪みを発見されて何カ月も牽引に通院する人がいます。脊椎分離症やすべり症などの病名も付けられるのですが、脊椎は誰しも多少の歪みはあります。整形医ですら、この牽引を「入院製造機」と呼ぶ方もいるほど、危険を伴うことも多々あるのです。まずは急な腰痛は風邪を疑う方が無難かも知れません。風邪は「百病の長」と云われるように、思ったよりも多種多様の病態をしばしば現します。
病気の名前
鍼灸医学では西洋医学の様に症状の一つ一つに細分化された名前を付けることはありません。病名を付けず、その発症原因である「病因」や、病変部位の「病位」、病の性質である「病情」、病の終息を表す「病勢」などに分け、ツボの選択や組み合わせを決定します。つまり癌の治療であっても、風邪の治療と全く同じツボを使って施術することもあり得るわけです。また、鍼は良く効くと云う人がいますが、鍼が効くのではなくて、治療家が病の症状や原因をいかに的確に診断し、最善のツボを選択できるかというところがとても重要であって、患者の言いなりに痛いところに鍼を打つことは診断を無視していると言わざるを得ません。洋の東西を問わず、医療は治療家が持つ知識のみならず、診断や治療時の意識の深さも重要になります。
病因論
では鍼灸医学ではどのように診断をしているのか簡単に説明してみます。先の「病因」は大きく3つに分かれ、それぞれの因子を「邪」と呼び、気候や天候、過度の感情、そして生活習慣に分類されています。その内容は非常に理に適っており、表にすると以下の囲みの様になります。
陰陽五行
鍼灸医学では病は「陰陽五行説」に則って考察するのですが、この「陰陽五行説」とは「陰陽論」と「五行説」が融合したもので、東洋医学というか鍼灸理論の骨子となり「気の思想」や「東洋哲学」の根本であるとも云われています。「陰陽論」とは老荘が大成し、万物には二つの異なった物が相反し、互いに依存補完し統一するという理論です。つまり昼と夜があって1日があるように、この世の事象の全てがこの「陰陽論」で成り立つと考えられています。また「五行説」は地球上で人間に必要不可欠な5つの要素に、人体や自然の摂理を照らし合わせ、木、火、土、金、水の五材(五行)に人体の五臓六腑を始めとし、人間の感情、生理、病理の他、自然の風土などの一切の事象ををあてはめ法則化したものです。
春の風邪
例えば外因の風邪(このときは「カゼ」と読まずに「フウジャ」と読みます)を説明してみると、陰陽五行説では季節は春に出やすく、肝臓と関係も深いので筋や腱に反応がでると考えます。また風は陽の邪気で上に上がりやすく、人体の上部に症状がでます。
頭痛、鼻づまり、咽頭痛、顔面浮腫、寝違い様の首の痛みなどは当にこの季節の症状です。病位が衛気と云う身体の表面を守る気を破ると、次に発熱、悪寒、汗がでる症状に変わります。特にこの風邪は遊走性、急変しやすいという特徴があり、風寒湿の三邪が共に起こると、激しい症状を呈すことが多く、顔面麻痺、五十肩様の肩関節周囲炎やその他の運動神経麻痺、首や腰に激痛が顕れます。
当院の場合、急性のリューマチなどもこの風邪の特異的症状と考えるので、咽頭の炎症に主眼をおいて治療を行い、思わぬ程顕著な改善を多数経験しています。つまりリューマチの人は、喉、歯、鼻からの炎症で、年中某かの風邪症状があると考えるのです。また現代人は空調などの影響で季節を問わず風の邪により病を発病しているのではないかと考えられます。
風邪の予防
風邪から身体を守る最善の方法は下半身を冷やさないこと、鼻呼吸に切り替えることも重要です。眠ると良く口を開く人がいますが、これには市販のいびき防止テープも有効です。口呼吸では空気中の細菌やウィルスを殺すことはできません。口腔から鼻には5つのワルダイエル扁桃リンパ輪というリンパ節があり、外部の雑菌から身体を守っています。しかし鼻は空気中の、口は飲食物の雑菌を殺しそれぞれ役割分担があり、起動する免疫システムも異なるのです。
ですから口を始終開けている人や首を付きだした姿勢をしていると、喉に何時も炎症が出やすく免疫が下がり風邪をひくのです。風邪の予防は姿勢と呼吸、下半身の冷えに気を付けること、最後に暴飲暴食をしないことに尽きます。
つづく