当会は、全国規模で活動する動物保護団体です。現在文部科学省で開催されている動物実験指針作業部会を傍聴し、議論の方向性に大きな懸念を覚え、この要望書をお送りいたします。
動物実験は、動物の犠牲に心を痛める多くの人々の関心事であり、それゆえに常に批判を受けたり不信の念をいだかれるなど、他の分野以上に人々の注目が寄せられる分野です。動物実験による研究は国民の税金や消費者の負担によってまかなわれており、それ故に、世界各国ではさまざまな形で法規制を行っています。
残念ながら、日本では動物実験を公的に把握できる制度がないため、どこでどのような実験が行われているかその全体像を把握することは至難の業です。
試みに当会では、昨年9月に、医学部を有する全国の国公立大学の情報公開窓口に対して、動物実験に関する文書の有無を問うアンケート調査を行いました。(別添参照)
全学から寄せられた回答の集計結果により、大学全体としては実態を把握するために必要な文書類も存在しないところが多々あることが判明しました。
このように記録の作成や保持の義務もない以上、動物実験にかかる全体像はほとんど把握できない状況であることが、何よりも解決すべき課題です。
諸外国では古くから動物実験に関する明確な法規制が行われていますが、日本では今回初めて、ようやく動物実験ガイドラインを策定するという段階です。であればこそ、国際レベルで認知されるためにも、まず、基本的な記録の作成とその情報公開、及び第三者によるチェック機能が導入されなければならないと考えます。
そこで当会では、別紙要望事項の通り、動物実験指針にぜひとも導入していただきたい事項を提案いたします。従来のような権威主義、閉鎖的、秘密主義的な動物実験のあり方を改革し、その透明性の確保と社会への説明責任が果たされるシステムの構築がなされるように強く願っております。
1.大学等研究機関の動物実験施設の文科省への届出制
届出事項には、所在地、名称、飼育動物の種類、飼育数、施設責任者名、職員数、飼育管理の状況、衛生管理、法規制のある実験の有無(ある場合はその管理のあり方)等、必要な事項を国として情報収集するべきである。
2.動物実験倫理委員会の設置
現行の動物実験委員会の中に動物実験倫理委員会を設け、実験動物の福祉の向上の観点から検討を行うべきである。倫理委員会は実験動物の飼養管理のあり方の助言や、3Rの観点からの提言を行うべきである。また、この倫理委員会には施設外有識者及び動物福祉関係者を必ず含めるべきである。科学研究といえども一般社会から遊離しているものではなく、常に社会からの声に耳を傾けるような姿勢が必要である。
3.動物実験計画書に動物福祉の3R原則の審査を導入
動物愛護管理法で3Rの原則が明記されたことから、計画の中に
(1)苦痛の程度(5段階評価)とその軽減の方法
(2)使用数の削減の検討の詳細
(3)動物を使わない方法の検討(それが不可能な場合の理由)
の3つの欄を設けるべきである。
4.動物実験委員会は合議制で開催
上記の3項目に関して実質的な審査を行うべきである。特に(1)は法律の遵守規定であり、苦痛の甚だしい実験は不許可とすべきである。
また、現行のように形式的な承認で終わらせることなく、合議制で実質的な検討を行い、必ずその結果を委員長の意見として記入するべきである。
5.実験終了後の評価
近年多くの分野で事業のモニタリングと評価が行われるようになっている。実験的研究であればなおのこと、その有効性の是非について事後評価がなされなければならない。
論文発表に到らなかった実験についても記録を文科省に報告すべきである。いわゆる失敗データも重複実験を避けたり新たな発見の糸口になる可能性があり、重複実験や無駄な実験を避ける材料となりえる。
6.実験動物生産業者の登録制の実施
当会が、情報公開により犬猫等の実験動物の入手先を調べたところ、その価格からして明らかにペットなどが実験用に提供されていると推定されるケースが多数あった。捕獲された野生動物および愛護動物の利用に関しては、違法の可能性が付きまとうため、購入先を明らかにすると共に、原則利用してはならないことを明記すべきである。(諸外国の法律では入手先を限定)
7.動物実験実施者の資格制・研修制
医科学系の大学では、何の訓練も受けていない学生にいきなり実習させることがしばしばある。かけがえのない動物の命を奪うことの重みに鑑み、教育を行う者は自ら研修を受け一定の民間資格を受けるとともに、学生には事前に動物福祉等に関する授業及び研修を行うことを義務づけるべきである。
8.動物実験施設の管理
動物実験施設では、毒物劇物の使用、放射線機器の使用、遺伝子組み替え実験、感染症病原体の取扱いなど、他の関係法令に係わる遵守義務が課せられていることが多い。安全性の確保とともに、地域住民には十分な情報公開を行い、災害時の対処など危機管理対策を課すべきである。
9.情報公開
動物実験の透明性の確保のため、積極的に情報公開に応じること。先進国の中で唯一、日本は動物実験への法規制がない国である以上、一般社会の常識から遊離・隔絶しないように、実験研究者自ら社会に対する説明責任を果たすべきである。
以上の項目を、今回日本で初めて策定される動物実験の指針に含めていただくよう、委員の皆様の活発なご意見を期待いたします。