第6回世界動物実験代替法学会(WC6)報告・その1
動物実験に代わる方法を求めて国内外から多数が参加
(AVA-net News No.127より抜粋)
荒木朝子
]2007年8月21日〜25日に東京で開かれた第6回世界動物実験代替法学会の最終日、25日の特別シンポジウムで、ALIVEとしてお話をする機会を頂きました。21日から25日の5日間の開催期間のうち、最終日及び前夜の懇親会のみの参加でしたが、そこで見聞きしたことや感じたことなどを簡単にご報告します。
■国内外から1050人が参加
大会事務局発表では、国内からの参加者は約500名弱、海外からもほぼ同じ人数であわせて約1050名。これまでの世界学会の中でもかなり盛況な部類に入る数字だと聞きました。初めてのアジアでの開催とあり、家族同伴で来日し、学会終了後観光をするという方がとても多かったようです。懇親会の参加者は約500名で、大きな会場も人で埋め尽くされていました。大阪大学の黒澤努氏と共に司会を務めさせて頂いたのですが、これだけの人たちが動物実験代替法の研究・開発や普及に向けて努力をしていると思うと本当に心強く、また頼もしく感じました。
懇親会会場では、学会長の大野泰雄氏(国立医薬品食品衛生研究所)の挨拶に始まり、メインイベントの津軽三味線の演奏など日本らしさをふんだんに盛りこんだ企画となっていました。お料理も素晴らしかったのですが、特にベジタリアンやビーガン用のものは用意されていませんでした。多くの動物保護関係者はベジタリアンやビーガンの方が多く、以前私が参加したボローニャの大会では、期間中は毎日ベジタリアン&ビーガン用のバイキングスタイルの昼食が用意されていましたが、今学会では動物保護関係者は食事に最も苦労されていたとのお話も聞きました。
懇親会では最後に日本側の学会関係者も学会成功の立役者として舞台に上がり、会場内から多くの拍手を受けていました。このような国際的な会議を運営する体験を通じ、日本の研究者や関係者が動物実験代替法への取り組みの重要性を再認識し、世界の期待に応え得る貢献をしていかねば、という思いになったのではないかと感じます。
■国際的な交流が進む
懇親会では新しい出会いもありましたが、たくさんの懐かしい方々にもお会いできました。化粧品業界の国内最大手の資生堂のI氏は、現在、代替法研究開発の室長になっておられ、「動物保護の方々との対話を大事にしていきたい。そのスタンスは今でも変わっていません」と話されていました。
教育における動物実験代替法を促進する国際団体インターニシェのコーディネーターのニック・ジュークス氏とも、ボローニャ以来の再会でした。彼は今回の来日で精力的に講演会や懇親会、ワークショップなどを手がけ、また渋谷区へのマウス解剖中止の話し合いにも参加してくれました。インターニシェとしてポスター展示もされていたようですし、メンバーのシリ・マーティンセン氏はノルウェーで初めて動物実験をしないで獣医師になられたという素敵な女性の方で、彼女は25日の市民講座でお話をされました。ちなみに彼女はALIVEが頒布しているインターニシェのビデオの中で、「倫理的死体の使用」について説明する箇所で登場しています!(※「倫理的死体の使用」とは、自然死や事故死にあった動物の遺体の提供を受けて実習に使用することを言います。)
スイスのアンディ・コッチ氏はOxyphenという細胞膜を開発する会社の方で、この学会で自社製品のニーズを強く感じ、有望な顧客を発掘することができたと話してくれました。このように代替法が動物に優しいだけではなく、ビジネスとして十分に成り立つということが、代替法普及への1つのキーポイントになると感じました。
■特別シンポジウム「科学者と市民との対話」でのスピーチ
さて、私がお話をさせて頂いた「科学者と市民との対話」という特別シンポジウムは、午後の市民公開講座に先立ち、最終日の午前中に分科会の形で2つの会場に分かれて行われました。午後の市民公開講座は無料でしたが、午前中の部は参加費が1日券でも1万円で、これではせっかく科学者と市民との貴重な交流の場という企画を作っても、気軽に参加することは難しいものとなってしまっていたのではないかと思います。
また、先ほどのシリ・マーティンセン氏の動物実験を行わずに獣医師になったという立場からのお話や、動物実験はもっと社会の審判を仰ぐべきだなどという興味深い内容の講義が同時に行われたため、各講義に対してまとまった聴衆の人数が集まりにくい形式であったということに関しても、より効率の良い方法を採用すべきではなかったのか、と感じました。
私は日本の動物実験の実情と法規制や実態調査の必要性に関してお話しさせて頂いたのですが(スピーチ参照)、質疑応答で、アメリカの団体の方から「なぜ日本ではなかなか法規制が進まないのか? なぜ法規制を求める動きが社会の中で起こりにくいのか」という質問を頂きました。
これに対しては、「動物実験は、日本では古くから行う側の自主規制で行われてきたという背景があり、法規制を受け入れたくないという障害がある。また、情報公開も一切行われておらず、一般社会では動物実験に対する情報が皆無に等しいため、何も知らない人がほとんど。法規制を求める動きになる以前に、動物実験がどのように行われているかさえ知られていないというのが、大きな問題。だから私達は法規制と同時に、情報公開を求めている」という趣旨の返答をしましたが、まさにその通りで、情報公開をいかに進めていくかということも私達の大きな課題の1つです。
動物との共生を考える連絡会の山崎恵子さんは、一市民という立場から興味深いお話をされていました。彼女も情報公開の重要性を説き、感情論に走りがちな日本での動物実験に関わる論争も、情報公開により科学的根拠に基づいた冷静な話し合いの場になるはずだと話しました。また、消費活動の観点から企業は動物実験代替法の採用による商品開発を消費者に周知すべきであり、またそれを1つの企業価値と位置づけていくべきだ、そして消費者自身も積極的にそのような情報のアクセスに努めるべきだ、とも話していました。そして動物実験代替法の研究開発は、まさにこのようなことから進んでいくだろう、と結論づけていました。
様々な食品や製品の安全性が問題になっている今日では、私達は「賢い」消費者として製品を選択できるような環境を作っていかねばなりません。欧米のように「動物実験をしていない(cruelty
free)」という表示をするなど、企業側もどんどん消費者にアピールすべきですし、動物や環境に優しい製品を選びたいという消費者の権利を尊重すべきであると思います。
■海外の市民団体のスピーチ
BUAVのミシェル・シュー氏の発表についてもご紹介します。BUAVはイギリスの動物実験反対を唱えている組織で、この分野では最も歴史が古い団体です。彼女はBUAVのCEOであり、15年以上も動物実験反対の活動の最前線で活躍してきた人です。EUでの化粧品の動物実験廃止も彼女の功績と言っても過言ではないですし、市民や行政担当者、政治家、産業界の代表、メディアなどを相手に世界中を飛び回っている人物です。
イギリスでは多くの市民が動物実験を望んでいないという数多くの信頼できる調査結果が出ているにもかかわらず、動物実験の数は近年増加傾向にあるといいます。この矛盾について彼女は次のように説明していました。
「社会の要求が『動物実験廃止』であるにもかかわらず、逆の方向に向かっている。きちんと世論を反映させた政策や方針の実現のために、さらに粘り強く社会の声を各関係者に伝える努力をしないといけない」、と。
また、BUAVの組織構成についても触れていましたが、法律部門や広報担当部門などの様々な専門部門をもち、また多くのスタッフや弁護士、科学者などを含む専門家が在籍する、まさに「専門家集団」であるといえます。わずかな個人による寄付で細々と活動をしている多くの日本の団体と比べて、圧倒的な資金力の違いを思い知らされました。
(全文は、AVA-net News No.127に掲載)