カナダのブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)医科大学院は未だに医学実習に動物を使用しているカナダではごくわずかな大学のひとつだが、動物の代りにロボットやコンピューター・モデルを実習に使用して外科実習を行なうことになり、9月からの新しいカリキュラムでは生きた動物を使用するクラスはひとつもないという。ロボットやコンピューター・モデルと共に、屠殺場で処分された動物の組織も使用し、また臨床実習もおこなわれる。
アメリカ、ワシントンDCに本部を置く健康促進団体、責任ある医療を目指す医師委員会(PCRM)が2001年に行なった調査によると、UBCは当時カナダ国内で生きた動物を使用していた3つの大学のうちのひとつだった。この調査の際には、UBCはその後も避妊・去勢処置、
縫合、 チューブの胸部への挿入、 気管切開,、心拍モニターなどのために生きたブタを使用する予定だといっていた。毎年、25頭ほどの生きた動物が使用され、これは生きた動物のほうが他の学校で使用しているモデルなどより人間の組織に近いためだということだった。しかし、今回の生きた動物の使用をやめるという決定は動物だけでなく学生にとってもプラスになるという。
UBCでは学生が必要な情報を得るための最良の方法は何かということを常に念頭に置いており、同時に社会的問題も考慮しているという。これまでに何人かの学生が授業で生きた動物を使用しなければいけないことに対して学校側に抗議を申し入れており、学校側はそのような状況が望ましくないとし、学生には授業についてどのような悩み事も持ってほしくないということだ。また、最高レベルの医師を送り出すことを目標にしており、今回の変更はその点では妥協はないという。
PCRMの代表であるバーナード医師はカナダ、アメリカの医科大学院では生きた動物の使用を止める傾向が 非常に高いという。アメリカに126ある医科大学院のうち、イエール、ハーバード、スタンフォードを含む92の大学院が生体利用を廃止している。バーナード医師は今回のUBCの決定を、動物にとってだけでなく学生にとっても素晴らしいことだと評価し、これからの医学教育で強調されるべきは人体に関する詳細を学ぶことで、これまでに同様の決定を行なった他の医科大学院同様、教育の質が向上するはずだという。
バーナード医師によると、1980年代半ばまでは北アメリカでは生体を使用して様々な医学技術を教える医科大学院が一般的だった。主に使用されていたのは犬だが、UBCではラットやウサギも使用されていたという。ネコの場合はまず殺処分されてから使用されていた。これまでの生体実習では4人の学生当たり1頭の犬を使用していた。アメリカ全土で126ある医科大学院で1クラス150名の学生がいることを考えると、毎年、何万もの動物が命を奪われていたことになる。
しかし、それは過去のできごとだとバーナード医師はいう。外科手術は90パーセントが解剖学であり、動脈や神経や静脈がどこにあるかを知っていなければならない。それをブタの身体で学べば、いざ手術室にはいったときに危険なことになる。ブタの身体についての知識があればいい獣医師にはなれるかもしれないが、いい外科医にはなれない。