製薬業界が、バイアグラのような性機能障害治療薬を男性だけでなく女性にも売るために、女性の性の問題を医学的機能障害として「作りあげた」可能性が指摘されている。
British Medical Journalに発表された記事は、製薬会社が製品の新しい市場開発のために症状を定義しているという。
製薬会社はこの6年間、女性の性機能障害を医学的治療が必要な症状と認めさせようと一致団結して努力してきた。4年前には男性用治療薬としてバイアグラが華々しく発売され、ファイザーはこの薬のおかげで2001年には15臆ドルという売り上げを記録した。
製薬会社と密接なつながりを持つ研究者が業界の後援するミーティングで何が障害であるかを定義してきた、と記事の筆者であるニューヨークのジャーナリスト、レイ・モイニハンは書く。
1999年、アメリカ医学会誌 (JAMA) に18歳から59歳までの女性の43パーセントが何らかの性機能障害を抱えているという論文が掲載されたが、この論文を発表した2人の研究者は後にファイザーとのつながりを公表したという。
この43パーセントという数字は以後広く引用されているが、その有効性ははなはだ疑わしい。この研究では約1500人の女性が性行為に対する無関心、あるいは性行為に関連する不安などについての7つの質問について、それぞれ2ヶ月以上経験したことがあるかどうか尋ねられ、いずれかの質問について「はい」があれば、その女性は性機能障害があると分類された。
「製薬会社と密接なつながりを持った研究者たちが、新薬開発にしのぎを削る会社からたっぷりと支援を受けているミーティングで新しい人間の病気を開発し定義するために製薬業界で働いている」とモイニハンは書く。
「女性の性機能障害」という表現を造語するのは、出産後、あるいは長年同じパートナーといることから生じているかもしれない女性の性的感情の正常な変化を病気だと見なす原因であるという医師もいる。
ロバート・ウッド・ジョンソン医科大学院の教授サンドラ・レイブラム博士は、多くの女性が不満を持ち、無関心になっているかもしれないが、だからといってその女性たちが病気だということではないという。
そしてインディアナ大学、キンゼー研究所の所長ジョン・バンクロフト博士は、性的問題を機能障害と定義してしまうと、本来、生活の他の部分に注意が払われなければいけない場合でも、性的機能を改善する薬を処方するよう医者をうながしてしまう危険がある、という。また、実際にはそうでないのに機能障害を持っていると女性に思い込ませてしまうだろう。
性と機能障害研究協会のジョン・ディーン博士は性機能障害の問題には医学的側面もあるが、心理的要因、社会・経済的要因、そして人間関係も重要な影響があり、女性の性機能障害をあまりに容易に医学的治療が必要な疾病と定義するのは控えるべきだという。
そして、何かを病理学的に定義をすると、人々は自分が治療を必要とする疾病をかかえていると思ってしまうが、薬が性機能障害の治療方法の一部としての役割を持っていることは確かだともいう。また、製薬会社と研究者が密接なつながりを持っているのはいけないことではないが、製薬会社と共謀すること、研究の方向性を業界の影響によって変えてしまうことは避ければならないという。
ファイザー側は、機能障害を「作り出した」ことはないと否定し、この記事は自分たちの苦しみを我が社に訴えている女性たちにとって大変な迷惑だと思う、という。
モイニハンは新しい疾病を定義し認識を促進するうえでの製薬会社の役割について更なる調査が必要だという。