実験施設での残虐な行為に法規制が必要
AVA-net News No.95 (2002.11-12)
翻訳:宮路
実験研究者が麻酔をかけられていない、意識のある動物から脳を取り出すために、その頭をハサミで切り離すところを想像してみてほしい。研究者はこの行為が研究プロトコールに違反していることは承知しているが、都合良く無視している。同じ研究所の別の研究者は、認可を得ずに動物に癌細胞を注入し、それによってできた腫瘍が研究所で認められている大きさを超えているのを放置している。
これはホラー映画に出てくる気の触れた科学者の話ではない。今年、ノースカロライナ大学のチャペルヒル実験研究部で実際に撮影されたビデオの映像だ。
カリフォルニアにある、世界最大のバイオテクノロジー企業、Amgenでは、獣医師や実験技術者から抗議があったにもかかわらず、実験研究助手が不充分な麻酔で動物に切開手術を施してその器官を取り出すということがあった。この助手は動物に肉体的・精神的苦痛を与えたとして2度注意勧告を受けている。コネチカット大学では、空気循環が適切に行なわれていない部屋に収容されていた実験動物が窒息死した。アメリカのあちこちの実験施設で、実験中に死ななかった動物が生きたままゴミ箱に捨てられたり、冷凍庫にしまわれたりしている。ハワイ大学では、冷凍庫を齧って脱出しようとしたものの凍死した動物の死体が見つかった。
私は動物実験には反対ではない。しかし、アメリカの実験施設で行なわれているこのような残虐行為には身震いがする。このようなことが起こった原因の一部は、実験動物の圧倒的大多数が法的な保護を与えられていないからだ。アメリカには実験動物の飼養や取扱いについての最低基準を定めている連邦法、動物福祉法(AWA)がある。
残念なことに、ジェシー・ヘルムズ上院議員は、全米生物医学協会(NABR)の圧力を受け、激しい論争を呼んだ法案(farm
bill)に対する修正案を提出した。これにより、1966年に制定され、1970年にすべての温血動物を含むよう改正されたAWAから、実験動物の95パーセントを除外することになった。これは年間2500万という数の動物だ。上院引退間近なヘルムズ氏への餞(はなむけ)として、議会は彼が提出した修正案を盛りこんだ法案の通過を阻止せず、これは法律となった。
上述の実験で使用された、AWAが定める最低限の保護を与えられなていない動物は、鳥類、マウス、ラットだ。こういった動物を特に好きな人間ではなくても、ただ鳥類、マウス、あるいはラットだというだけで不必要に苦しまなくてはいけないとは思わないだろう。AWAの中にこれらの動物を含めるのが人々から尊敬される科学者に対する過度な要求だとは思わない。しかし、NABRは別の任務を持っている。NABRは「ビジネス」としての動物実験を代表している。実験用動物をできるだけ数多く売り、できるだけ見落としなく実験を行い、かつ、すべての実験施設が動物に最高の飼養状態を提供しているかのように一般市民に思わせるのだ。NABRは実験用動物を保護するための法の制定にひとつの例外なく反対してきており、不正確な情報と感情を煽りたてる戦略を使って、科学者と科学機関に対して人々が生来持っている信頼を利用しているのだ。
NABRは、ヘルムズ修正案を支持するのは科学界を代弁してのことだと主張しているが、この問題について行なわれた唯一の科学的研究には言及していない。ウエスト・カロライナ大学のハロルド・ハーツォクとウェズレイアン大学のプラウスという科学者が行った研究では、動物実験に携わる人間の73.3パーセントがマウスやラットをAWAに含むことを、そして69パーセントが鳥類を含むことを支持している。また、2001年5月に行なわれたNABRの会議に出席した人の大半も、出席者の報告によると、これらの動物をAWAに含めることに賛成だったという。当然のことながら、NABR側は会議でそのような調査を行ったことをすばやく否定している。
実験施設内で何が起こっているのかを知るには、どうしたらいいのだろうか。情報公開法(FOIA)を利用して、誰でも実験室に関する政府書類のコピーを請求し、施設がAWAの規定条件を充たしていない点、実験動物の数(鳥類、マウス、ラットを除く)についての情報を得ることができる。この情報は、ジョンズ・ホプキンズ大学のようなきちんとしていない場所にとっては不都合を招く場合もある。ジョンズ・ホプキンズ大学は、鳥類、マウス、ラットの保護を最も雄弁に批判する研究者がいる施設であるが、昨年、施設で霊長類が苦しんで死んだ件と承認を得ずに動物を実験に使用した件で注意勧告を受けている。驚くにはあたらないが、NABRはこのような法律を遵守しない施設を援護するために、まさにこのような動物虐待を防ぐために制定された法律を攻撃している。さらにNABRは、今後、一般市民が情報を入手できないようにするための修正を下院農業予算案に付け加え、その上、大胆にも自らの目的を達成するためにテロの危険性を言い訳に使い、一般市民を信用させているのだ。
このような恥ずべき所業はあってはならないことで、どのような言い訳も通用しない。しかしながら、議会が9月に招集されるとき、事態を正す時間はあるはずだ。
クリストファー・J・ハイド、元共和党上院職員、退役陸軍軍人、動物保護法協会職員
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