動物実験に依存した医学の誤ち
AVA-net News No.82 (2000.9-10)
訳:宮路
実験動物によっては救われない人間の命
4月20日付けの「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」誌に、また、新たに判明した動物実験の失敗が報告されている。Plavixという凝血防止剤の使用が、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)という命取りにもなりかねない血液の病気を引き起こすことが分かったのだ。Plavixの使用者は全米で3百万人にものぼり、製品化のために必要な動物実験はすべてクリアし、人体にも安全であると思われていた。しかし、今、この薬品が出血、貧血、腎臓障害を引き起こしている。
一医師として、このニュースには暗い気分になるが、驚きはしない。研究における動物使用が(人間の)健康に危険を及ぼすのは珍しいことではない。
昨年の秋にも、Raxarという抗生物質の副作用のために数名が心不全で死亡し、その後、Raxarは回収された。この薬も動物実験で安全性は確認されていた。他のフルオロキノロン系抗生物質、TrovanやOmnifloxも1999年に、やはり予想されなかった中毒症状を引き起こし、回収、あるいは警告書を添付しての再販となった。問題の中毒症状は動物実験ではまったく起こらなかった。
実際、医学研究に動物を使用することは、医学の進歩を遅らせ、人間の健康を危険にさらす。「実験動物科学のハンドブック」にも、動物実験のデータをそのまま人間に当てはめようとするのは、危険なまでに誤解を招き、何千何万という人の健康や命を奪うことにもなりかねない、と書かれている。
ガン研究を例にとってみよう。国立ガン研究所のクロースナー博士によれば、「研究者達はとうの昔からマウスのガンをなおす方法を知っているが、それは人間のガンには適応できない」のだそうだ。ガン研究のために何百万もの動物が犠牲になってきたにもかかわらず、人類はこの病を間もなく根絶させることができる、といえる科学者は誰もいない。そして、喫煙に関する動物実験でも、喫煙と肺ガンとの関連性を確立できず、そのために長い間、たばこが発ガン物質であると表示することができないでいた。
人間がガンの原因、治療の効果、予防について、最も貴重な情報を発見してきたのは、疫学(人口研究)、in
vitro(試験管内での)実験、そして臨床における研究からである。
また、HIVも、動物実験の無効性を明示している。人間以外の生物はHIVに感染しない。実験室で人工的にある特定の種を感染させる目的で開発された類似型はあるが、これらはいずれもHIVではない。だから、これまでにわずかながら開発されたHIVプロテアーゼ阻害薬のような効果的な薬が動物実験をまったく行なわず、in
vitro実験によって開発されたことも驚くべきことではない。
霊長類研究者、マイケル・ワイアンドはこう語っている。「効果の期待できる抗ウィルスの検査はin
vitroシステムで行ってから…(動物を使用した)in vivo(生体内)システムによる効能証明データはほとんど取らずに、直接人間に接種された。…この理由の中には、人間のHIV感染の参考になるような動物モデルはないという、大方の確固たる見解も含まれる」
また、心臓疾患研究については、動物が人間と同様の心臓血管系の病気になるのは不可能だ。例えば、研究者は人間と同様の(心臓の)冠状動脈疾患にかからせようと、20以上の動物ーその中には考えられないような種、カンガルーやペリカンも含まれるーで試したが、どの種でも成功しなかった。この分野での最大の功績は疫学(フラミンガム研究と呼ばれる心臓血管疾患に対する疫学調査など)、検死、in
vitro研究、臨床観察、そして、(人間の)解剖用死体で行われた外科手術研修に帰する。
動物実験を行なう研究者は、よく糖尿病研究を引き合いに出す。実際は、1700年代後半には、検死によって糖尿病が膵臓に影響を及ぼすことが発見されていたのだが、動物実験ではこの関連性が確立できず、糖尿病における膵臓の果たす役割が何年もの間議論されたために、治療回復に向けた研究が大幅に遅れたのだ。
ポリオワクチンの開発でも同様のことが起こった。1912年には、病理学者がポリオは消化器系統から人体に入り込むことを発見していたにもかかわらず、サルの研究ではポリオが鼻腔を通して感染するという結果が出てしまった。この動物実験のデータのおかげで、ワクチンの開発は30年以上も遅れてしまったのだ。
一医師として、私は医学研究に動物の存在する場はないと確信している。自分の子どもを獣医師に見せる親はいないだろう。人間の疾患研究における動物の使用を支持するのも同様に躊躇すべきであろう。
(マレー・コーヘン医師:シアトル・ ポスト・インテリジェンサーへの投稿記事)
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