【アメリカ】
実験室で再現される心臓疾患
AVA-net 海外 ニュース No.148 2011-5-6 翻訳:宮路正子
* 心臓疾患薬の新しい開発方法を示す研究
* 新しい幹細胞技術の可能性を示す研究結果
米国の研究者チームは、症例の稀な心臓疾患のある子供から皮膚細胞を採取し、これをもとに同じ疾患を持つ、鼓動する心臓細胞を再生した。この方法を使えば、マウスの代わりにヒト細胞で新薬試験ができることになる。
ほとんどの心臓疾患薬はこの細胞では効果が見られなかったが、サイクラセル・ファーマシューティカルズ社が研究中の制がん剤は効果があるようだと、スタンフォード大学のリカルド・ドルメッチ博士らの研究チームがネイチャー誌に発表した。
これは、疾患のヒトモデルを作るために有望な新技術を使用するという新しい分野の研究のひとつだ。ヒトモデルは、通常の細胞を再プログラミングして、胚幹細胞という、身体のどんな組織も作り出すことができる万能細胞のように機能させる。
「人体の細胞の遺伝的プログラミングはすべて同じように組まれています。つまり、皮膚細胞を再プログラミングして幹細胞を作成する能力を持たせることができるということで、その細胞を使って心臓細胞を作ることができるです」とドルメッチ博士はいう。
2006年に発見された人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、遺伝性疾患患者から採集し、研究室で培養した後、何ヶ月でも何年でも保存することが可能だ。
ドルメッチ博士らは、ティモシー症候群の子供たちから皮膚細胞を集めた。ティモシー症候群は、自閉症やQT延長症候群という、心収縮の調整不全によって心拍が不規則になる症状を引き起こす稀な遺伝性疾患である。
QT延長症候群の患者は不整脈を持ち、また、心室細動という心臓が無秩序に拍動し、致命的になりかねない不整脈を起こしやすい。
ティモシー症候群の子供たちから採取した細胞を再プログラミングし、過去4年ほどの間に、皮膚細胞を心臓細胞に変換する方法を開発した、とドルメッチ博士はいう。
研究チームは、2人のティモシー症候群患者と5人の健常者からの皮膚細胞を再プログラミングし、次に、これらの細胞が心房細胞、心室細胞、結節細胞になるよう操作した。この3つは心臓の電気系統を構成する細胞で、3つが自然に凝集して心室や心房の区切りがないミニチュアの心臓を形成する。
<効かない抗不整脈薬>
健常者の細胞から作成した心臓細胞の拍数は毎分平均60回だが、ティモシー症候群の患者の細胞から作成したものは毎分30回とゆっくりだ。
「ティモシー症候群の子供たちの細胞から作成した心臓細胞に何か不具合があることはすぐに分かりました。その細胞は拍動し、止まり、そして、粗動を起こすのです」とドルメッチ博士はいう。
次に、そのような症状が改善するかどうか、数種の抗不整脈薬を作成した細胞で試験したが、どの薬も効果がみられなかった。ただひとつ効果が現れたのは、現在フェーズ2(第II相臨床試験)で試験段階の抗がん化合物Roscovitineだった。
この薬品を心臓疾患に使用するためには調整が必要だが、研究結果は、疾患、特に良い動物モデルのないもの、の研究方法としてiPS細胞の使用が期待できることを示しており、可能性は非常に高い、とドルメッチ博士はいう。
また、市場撤退したメルクの鎮痛剤バイオックスなどの薬品はQT延長症候群を引き起こすが、この細胞を使えば毒性副作用のスクリーニングを行うことができるという。
ドルメッチ博士らは、また、遺伝による心不全にも取り組んでおり、培養による心室細動モデルを作成した。心室細動は心臓疾患による主な死亡原因のひとつで、アメリカでは毎年40万以上の死因となっている。
スタンフォード大学はこの技術の特許を申請しており、ドルメッチ博士によれば、ファイザー、ロシュ、アムジェンなどの製薬会社がライセンス契約に関心を示しているという。
2011年2月9日 Reuters.com
http://www.reuters.com/article/2011/02/09/heart-stemcells-idUSN0918412120110209
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