【アメリカ】
新しい化学物質評価法
AVA-net 海外 ニュース No.147 2011-3-4 翻訳:宮路正子
殺虫剤の健康への危険はよく知られているが、もともと毒性を持つように開発されたわけではなかったプラスチック製造に使用されるビスフェノールAやフタル酸エステルなどの化学物質はどうだろうか。
市場に出回っている化合物の70パーセント以上は、その発がん性、生殖能力のかく乱、胎児への健康被害などに関してほとんど、あるいはまったくデータがない。
米ノースカロライナ州、リサーチトライアングルパークにある環境保護局(EPA)の約40人の科学者がその問題に取り組み、データ不足を埋めようとしている。EPA国立毒性計算センター(NCCT)の所長、ロバート・キャブロック博士を中心とする研究者チームは、ToxCastという、人間や環境に被害を与える可能性がある化学物質をスクリーニングするプログラム作りに取り組んでいる。
ToxCastは、40年以上も前に開発された生体を使用する動物実験の代わりに、薬物研究から収集したスクリーニング技術を使用する。
そして、ひとつの化学物質を、約600のToxCastテストの結果を元に、コンピューターが分かりやすい三次元図に編集する。
ToxCastテストでは、化学物質の生物学的活動の“指紋”を探すのだと、キャブロック博士はいう。
ToxCastによる指紋解析は数週間ででき、費用も2万5000ドル(約200万円)ほどで済む。 一方、生体を使用する動物実験では、何ヶ月もかかり、化学物質ひとつにつき1000万ドル(約8億円)から1200万ドル(約10億円)かかる。
キャブロック博士のチームは、毒性試験におけるパラダイム転換の最先端にいるのだと、トーマス・ハートゥング博士はいう。ハートゥング博士は、根拠に基づいた毒物学の教授で、ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院動物実験代替法センター(CAAT)の所長である。
EPAは5年前にNCCTを設立して以来、約1000の化学物質のスクリーニングを行っている。これはToxCastリストにある化合物すべての約10パーセントほどだ。
しかし、今までのところ、ToxCastで解析された指紋が、実際に危険評価のために使用されたのは一度だけだ。昨年夏にメキシコ湾で起こった原油流出の際にEPAがBP(イギリスに本拠地を置くエネルギー供給企業)に使用を許可した8つの分散剤のひとつ、Corexit9500の毒性が特に問題視されたときのことだ。
EPAの科学者チームは、国立衛生研究所や、ダラムとボルチモアにある契約研究所の研究者と共同で、4週間のうちに指紋解析を終了したと、NCCTの実験生物学者デビッド・ディックスはいう。そのおかげでBPは、この分散剤の使用を継続できたのだ。
この一件以来、食品医薬品局もToxCastの研究活動に加わった。 しかし、ToxCastの指紋解析が化学物質の有害性の有無を予測するために標準的に使われるようになるまでには、おそらく5年から10年かかるだろう。
2011年1月2日
Charlotte Observer
http://www.charlotteobserver.com/2011/01/02/1951280/a-new-way-to-assess-chemicals.html
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