【アメリカ】
試験管培養の腫瘍でガン治療薬開発が促進
AVA-net 海外 ニュース No.147 2011-3-4 翻訳:宮路正子
ヒト組織から実物とほとんど変わらないガン細胞が初めて培養され、より速くて効果的な新薬の開発への期待を高めている。
“試験管培養の腫瘍“は培養皿内で、生体内でと同じように、しかしはるかに速いペースで成長し、ガンの進行に関する研究に役立つ新しいツールになるだろうと考えられている。
米国の研究者チームは、ヒトの皮膚、のど、および頚部から健康な細胞を採取し、ウィルスを使用して、成長を制御する遺伝子を操作して、採取した細胞をガン性に変えた。そのようにして、培養したヒト皮膚モデルを使って、がん細胞が、がん患者の体内でと同じように、健康な組織を破壊するのを観察した。
三次元の腫瘍モデルを使い、開発中の20の抗がん剤の実験を行ったが、その多くは動物実験がむずかしかったものだ。実験ではがんが周囲の組織に侵入するのを防ぐ3つの有望な選択肢を特定することができた。
この種の研究は、動物モデルでは何ヶ月もかかっていたが、今では数日で行うことができる、とスタンフォード大学のポール・カヴァリ教授は語った。Nature
Medicine誌に発表されたこの研究はカヴァリ教授の主導で行われた。
カヴァリ教授は、また、ヒトの腫瘍を複数の異なる組織から作ることができるようになったので、自然にできたヒトの腫瘍でどのようなことが起こっているかを評価する新しい方法ができたという。
これまでのがんのモデルは、実験室で培養された細胞株を使用していた。しかし、これには生体内でがん細胞がどのように活動するかを示さない変異株を含んでいることも多かった。
カヴァリ教授らは実験で、二次元モデルも使用したが、そのような単層の細胞では実際と同じようには活動しないことが分かった。つまり、そのような培養物を使用した実験の結果は参考にならない可能性があるということだ。
このことは、二次元培養による細胞の研究から得た結果が、臨床において適合性があることを確実にするためには、他の研究結果と相関させる必要があることを示している、とカヴァリ教授はいう。
実験では上皮細胞を使用し、腫瘍の無制御な成長を促進することが知られている2つの遺伝経路を、ウィルスを使用して変更し、ヒト皮膚を構成する他の成分にこの細胞を加えた。上皮細胞は、生体において器官や腔を覆っており、基底膜と、間質と呼ばれる皮膚の下層膜との間に位置するもので、がんの約90パーセントはこの細胞で発生する。
カヴァリ教授のモデルは、初めは正常な組織のように見えていたが、6日も経たないうちに、その細胞が膜を突き破り、間質に侵入した。これは、自然に発生する人間の腫瘍で見られる活動と同じものだという
細胞が、前がん状態から浸潤性のがんへ変化するには何年もかかることが多いが、この無傷ヒト組織モデルに限っては、はるかに速い速度でこの過程が進むのだという。
英国がん研究協会のジェシカ・ハリス健康情報上級担当官は「がん研究に培養細胞を使用するのは非常に重要です。というのは、研究者はそれによって、抗がん剤の可能性がある候補薬品を見つけ、実験を行うという薬品開発の初期段階を行うことができるからです。人間の腫瘍が“実際にどのように活動するか”を模倣する三次元細胞の開発はこのプロセスの助けとなるものです」、と述べている。
2010年11月22日
The Times
http://www.thetimes.co.uk/tto/health/news/article2816123.ece
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