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海外ニュース

【アメリカ】

 認められつつある動物実験代替法

AVA-net 海外 ニュース  No.145

 2010-11-12 翻訳:宮路正子

新薬や日用品は、そのほとんどすべてが、ラット、ウサギ、チンパンジー、その他の動物を使って安全性の確認が行われているが、科学技術の進歩によってそのような実験に終止符が打たれるかもしれない。

研究者と政府当局が新しいシステムを認めれば、動物実験はそう遠くない将来、段階的に廃止することができるかもしれない。今週、この問題について議論するために集まった専門家たちはそう考えている。

「私たちは、動物を救う方法を探し、日用品のリスク評価がより信頼できるものになるよう努力しています。科学の進化とともに私たちは学んでいるのです」と、ジョンズ・ホプキンス大学動物実験代替法センター(CAAT)所長のトーマス・ハートゥング博士はいう。CAATはワシントンで『動物、実験、代替法:50年後の進歩を評価する』という会議を共催した。

世界中で実験に使用される動物の数は毎年数千万から1億、あるいはそれ以上と推計されている。現在、ひとつの薬品を開発するのに80から800匹ほどの動物が必要とされ、科学者たちの間では動物実験が命を救う進歩をもたらしたとみなされ、動物実験が廃止される可能性がある、あるいは廃止されるべきだという国際的な合意はない、と“責任ある医学を目指す医師会”(PCRM)はいう。

非営利の動物保護団体であるPCRMのよると、(アメリカでは)実験に使用される動物のほとんどを占める齧歯類や鳥類などは、動物福祉法と呼ばれる、実験や娯楽における動物の使用を管理する主な連邦法に含まれてすらいない。

多くの主流な研究者は、現在、3Rと呼ばれる概念をより厳密に遵守している。3Rとは、実験における動物の使用の削減、実験の洗練化(による動物の苦痛の軽減)、そして可能な場合には代替法に置き換える方法だ。3Rは1970年代から80年代にかけてほとんど関心を持たれていなかったが、いまでは米国医師会など、研究には動物実験の継続が重要だと公式に表明しているところも含めて、多くの団体の方針に盛り込まれている。

すべての薬品や食品添加用化学物質などは連邦法によって動物実験が義務付けられているが、日用品や美容関連品メーカーは動物実験を行わないと誓約するところが増えている。

動物実験を行わないと誓約している会社にはAveda、Bath&Body Works、エスティーローダーなどがあり、“動物の倫理的扱いを求める人々の会”などの動物保護団体から動物実験を行っていないという認証を得ている。また、医学研究に資金を提供する慈善基金のなかには、ドリス・デューク慈善財団などのように動物実験には助成金を提供しないところもある。

企業が動物実験から離れていくのは、消費者の要望に応えての場合もある。2009年7月にピュー慈善基金が行った調査では、93パーセントもの科学者がいまだに動物実験を支持している一方で、一般市民では半分の支持しかない。

教育の分野では、メリーランド大学医科大学院など、ほとんどの医学校が、動物実験研究を廃止したと報告しているが、ジョンズ・ホプキンズ大学医科大学院ではまだ動物実験を行っている。

動物実験の廃止を促進するのは、ヒト細胞や動物の細胞を使用した実験、バーチャル細胞、コンピューター・モデリングなどの新しい技術だと、ホープ・ファードウシアン博士はいう。博士は今回の動物会議を主催した“責任ある医学を目指す医師会”の研究政策担当部長である。博士は、近年、重要な分野においていくつかの目覚しい進歩が見られ、動物実験代替法における発展があったという。

多くの場合、動物実験を行わないのは、実験が動物に与える影響が主な理由だ。ファードウシアン博士の研究では、痛みと不快感に加えて、チンパンジーが、ちょうど人間が心的外傷後ストレス障害に苦しむように、感情障害や不安障害に悩まされることを示している。

しかし、ホプキンズ大学のハートゥングは効率や効果などといった他の実用的な問題により関心がある。

日用品には約10万の化学物質が使われており、有意な検査が行われているのはまだそのうちの5000に過ぎない。というのは、誰も基準通りの方法で動物実験を行うことができないからだ。しかも、検査によって必ずしも良いものと悪いものを選別できるわけではない。

例えば、アスピリンは最も古くからあり信頼できる薬品のひとつであるが、今日の安全検査では合格しない可能性もある、とハートゥングはいう。現在の検査方法では、検査する薬品を毎日1ポンド(約450グラム)与え、大量投与が有害でないことを確認する。たとえ、それが実際の投与量からはかけ離れた量だとしてもだ。

そして、ラットが薬品を代謝する方法は人間のそれとは異なるので、動物実験が常に人間にとって有害になるものを明らかにするわけではない。

莫大な資金が費やされているが、現行の方法はお金がかかり、成果をあげていないので、新しいアプローチが必要であり、食品医薬品局(FDA)や環境保護庁(EPA)などの、薬品や化学物質の認可を監督する連邦政府が、非動物実験を考慮し始めているという。

米科学アカデミーの2007年の報告書では、動物実験の限界について概説し、技術に新たな焦点を当てることを提案していると、ハートゥングは指摘する。また、EPA、国立衛生研究所の国立毒物学プログラム&化学ゲノムセンター、そして最近になってFDAも、非動物実験へ資金を提供し、また研究を行うという文書に署名している。

例えば、政府機関はコンピューター・システムを開発しているが、将来的に製薬会社がこれを使用して、開発に失敗した薬品の毒性に基づいて有毒な薬品の毒性を評価し、それを取り除くことができるようになる。これまでのところ、データベースには1万の薬品の情報が集積されている。

EPAは、まもなく、Tox21と呼ばれるコンピューター・プログラムを使用して、その他の化学薬品を発ガン性や内分泌かく乱物質(生体にホルモン様作用をおこし、正常な身体機能を乱す)の可能性がないかどうかの検査を始めると、国立計算毒性学センターのロバート J. キャブロック所長はいう。

病気を引き起こす可能性がある物質が特定されれば、それは最優先で通常の検査にまわされる。このやり方で、すでに流通している製品に使用されている未検査の化学物質のうちで最も毒性の高い可能性があるものから取り除くことができる。

キャブロックは、製薬会社も、また、危険な薬品をより速く、人間での臨床試験を始める前に取り除くことができ、時間とお金を節約できるともいう。例えば、食品に使用される化学物質では、その検査に600万ドル(約5億円)から1000万ドル(約8億4000万円)かかるが、コンピューターによる検査では2万ドル(約170万円)程度で済むだろうという。

これは標準的なシステムとなり、いずれは法になる可能性もある。検査すべき化学物質の優先順位付けは、議会で現在審議されている有害物質規制法改正案に盛り込まれており、この法案は、現存する化学物質やこれから作られる化学物質を規制するより多くの権限をEPAに与えることになる。

キャブロックは、コンピューター・モデリングの信頼性がいずれ証明され、薬品や化学物質を検査する他のハイテクな方法の開発が続けられれば、今より動物実験を減らせることになるという。

「今は動物を使用することが、ゴールド・スタンダード(究極の判断基準)となっていますが、今より向上しなければいけないという認識が全体にあります。私たちは科学に取り組んでおり、それに対して一般の人がもっと理解できるようにしています」

2010年8月26日
The Baltimore Sun
http://mobile.baltimoresun.com/wap/news/text.jsp?sid=297&nid=19963915&cid=17103&scid=-1&ith=1&title=Health

 

 

 

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