AVA-net 海外 ニュース No.144
2010-9-10 翻訳:宮路正子
科学実験における動物の使用は、動物実験指令の改正に伴い早急に削減されるかもしれない。7月12日、農業委員会で改正案が承認されたが、この改正案は動物福祉の改善と疾病研究への支援との間に公正なバランスを保とうとするものだ。
欧州議会本会議と理事会が改正案を承認すれば、加盟国の当該機関は、代替法の促進と動物に与える苦痛度を軽減することを視野に入れて、すべての動物実験に関わる動物福祉を評価することを義務付けられる。
改正案は、また、科学実験における霊長類の使用を厳しく制限し、特に、動物に与える苦痛度によって実験を分類し、規定遵守に必要な検査を詳細に定めている。
エリザベート・ジェグル議員の改正案報告書は、反対ゼロ、棄権4で委員会で承認された。この報告書は倫理的理由から、研究を妨げることなく、科学目的に使用される動物の数を減らすことを目標としており、欧州議会と理事会が合意した内容を反映している。
よりいっそうの努力が求められる代替法の開発
改正案では、EU内で承認されている代替法が存在する場合、すべての加盟国は動物実験ではなく代替法が用いられることを確実にしなくてはならない。さらに、動物に最小限の苦痛を与える殺処分法を取り入れ、同時に科学的に満足のいく結果を提供できる実験のみに許可が与えられる。
したがって、科学実験における動物の使用が許可されるのは、基礎研究や人間、動物、植物の疾病などに関する研究、薬物試験、種の保存、高等教育、犯罪の科学捜査に関するものとなる。
柔軟に対応するために“セーフガード条項”も導入され、各国政府は改正案規定の適用を制限することができるが、例外的で科学的に正当な理由がある場合に限られ、また、委員会及び他のEU加盟国に通知してからでなければならない。
医学研究を妨げずに霊長類の使用数を減らす
チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンなどの大型類人猿を科学実験へ使用することを禁止する案については委員会メンバーも大筋で承認している。しかし、改正案はマーモセットやマカクなど、大型類人猿以外の霊長類の使用も制限していることから、議会からはアルツハイマーなどの神経変性疾患の欧州における科学研究を妨げるのではないかという意見もあった。そこで委員会は、それらの霊長類を使用しないと実験目的が達成できないという科学的証拠がある場合には使用することができるように法案を改定した。
実験による苦痛度の分類
議会での第一読会で承認された改正案では、実験中に動物に与える苦痛度(回復不可、弱、中、強)の分類が導入された。
繰り返しの苦痛を避けるため、委員会は同じ動物の再使用は、実験が与える苦痛が“弱”までの場合に限るよう提案したが、議会は基準をあまりに厳しくしてしまうと、実験に使用する動物の数を増やしてしまう結果になり、そもそもの趣旨に反すると危惧した。そのため、苦痛度が“中”の実験でも動物を再使用することは可能になったが、事前に獣医師の意見を求めなければならない。
検査とレビュー
規定を確実に実施するために、議会は動物を使用する科学実験を行う機関の定期的かつ効果的な検査を行う必要性を強調している。
理事会との合意では、加盟国政府が動物実験施設の少なくとも33%について検査を行うことを確実にすること、抜き打ち検査も含むこと、を義務付けている。また、委員会は、加盟国の検査機関を管理する責任を負い、なおかつ、施行から5年後に改正法の見直しをしなくてはならない。
次のステップ
農業委員会で承認された改正案は、第二読会で理事会の承認を得るために加えられた変更を反映している。欧州議会本会議での決議は9月に行われ、その後、理事会にかけられる。指令は最終承認から3年後に施行される。
2010年7月12日
欧州議会公式サイト
http://www.europarl.europa.eu/news/expert/infopress_page/032-78621-193-07-29-904-20100712IPR78616-12-07-2010-2010-false/default_en.htm