AVA-net 海外 ニュース No.144
2010-9-10 翻訳:宮路正子
長い間、自己防衛、強迫観念、そして、どのような批判も寄せつけまいとする姿勢を保ってきた動物実験界だが、今、静かな革命とでもいうべき状況が進行している。
何がこの変化の引き金となったのだろうか。経済状況、そして増大する研究への投資にもかかわらず、新薬は減少しているせいもあるし、また、少なくともイギリスにおいては、動物の権利過激派の脅威のほとんどが取り除かれたのも一因だろう。
最近まで、動物実験に関する批判は、動物実験に反対する団体からだけで、彼らは動物実験が透明性に欠けるという批判を繰り返し行ってきた。しかし、今、批判は研究者からも出ている。この批判は、動物実験がすべての面においてそうであるべきほどきちんとしておらず、何かが変わらなければならないという認識をもとに行われている。
英国立3R代替法センター(NC3Rs)は、このような状況を鑑み、研究論文における動物実験に関する報告の質を向上させることを目的とした新しいガイドライン(http://www.nc3rs.org.uk/page.asp?id=1357)
を発行した。このガイドラインは主要な助成機関や多くの国際的な専門誌も含めた支持を得ており、動物実験に関する新しい傾向を示すものだ。
5年前であれば、このガイドラインは科学界から疑いの目を向けられ、官僚主義の拡大だと非難されただろう。そのような受け止め方をされなかったのは、このガイドラインの発行が最近発表されたいくつかの研究の後だったからだ。これらの研究では動物実験における重大な欠点が明らかにされている。私が所属するNC3Rsが行った研究でも、300ほどの論文のうち、多くのもので主要な情報が抜けていた。これらの論文は、イギリスやアメリカで公的資金を使って行われた齧歯動物やサルの実験に関するものだ。
抜け落ちている詳細のすべてが実験結果とその解釈に影響する可能性もあり、劣悪な実験報告は品質管理の基盤であるピア・レビューの信頼性を損なう。情報が抜け落ちている研究が多いため、研究がきちんと設計され、適切に分析されたかどうかを知るのが不可能になり、これは動物実験への資金供給者や実験を行う研究者の評判のためにも良くない。
新しいガイドラインは、動物実験から引き出される科学が最大限のものであり、実験に使用されたすべての動物が役立つことを確実にするものだ。よりよい報告は、どの動物モデルが役に立つか、どの動物モデルが役に立たないかを評価するチャンスをより大きいものにするだろう。これを行うひとつの方法は、臨床研究では究極の判断基準である系統的レビューだが、公表される情報の不足のせいでこれは動物実験ではほとんど適用されていない。
動物実験は何年もの間、研究者の悩みの種となってきたが、この問題の科学的、倫理的、経済的な評価を誤ってはならない。動物実験データをきちんと報告しないということは、何か、たとえば行われていることの品質や価値についてなど、を隠そうとする試みと受け取られても仕方ない。動物実験が公的資金で行われている場合、一般市民からの信任は不可欠だ。改善の余地はたくさんある。科学者、資金提供者、研究者、編集者が新しいガイドラインに従って自らの襟を正すべきときだ。
2010年7月2日
The New Scientist
http://www.newscientist.com/article/mg20727672.900-make-every-animal-experiment-count.html