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海外ニュース

【EU】

 欧州連合(EU)、実験動物の福祉を促進

AVA-net 海外 ニュース  No.143 2010-7-8 翻訳:宮路正子

 
 欧州全体の動物実験を規制する新法が数ヶ月のうちに採択され、施行されてから24年経つEU指令に取って代わる。これにより、科学的研究に使用される動物を保護するための共通規制が、初めて27すべてのEU加盟国で適用されることになる。

 「これでヨーロッパのほとんどの国で、動物福祉基準をイギリスの水準に近いところまで引き上げられることになるでしょう」、とロビー団体“動物実験を理解する”の最高責任者サイモン・フェスティング博士はBBCに語った。

 指令は、委員会が作成し、議会と理事会が修正した。

動物福祉の推進

 昨年12月、EUがリスボン条約を導入し、動物福祉は、差別の排除、男女平等の促進、人の健康と福祉の保護と同等に見なされ、EUの基本的価値感となった。

 この新しいEUの条約には、加盟国は“動物は感覚のある生物であるので、動物の福祉における要件を十分に尊重しなければならない”、と書かれている。また、宗教上の儀式、文化的伝統、地域の遺産に関連する法律や習慣も、尊重されるという但し書が加えられている。

 新しい法律に組み込まれている主要な原則のひとつは、“置き換え”、“削減”、“苦痛の軽減”という“3Rs”であり、その目標は、可能な限り代替技術に置き換えて、実験に使用する動物の数を削減し、実験手順を洗練して苦痛を最小限にすることだ。

 法制化が難しい領域は、科学実験の際に動物が味わう苦痛の程度だ。新しい指令案は、実験手順の苦痛の程度を分類するシステムを設け、“軽度”、“中度”、“重度”の例は、指令の付属書に記されている。

 しかし、フェスティング博士は、人間の場合、医師が使用する1から10までの“痛みの評価表”と同様、これは大まかな指標にすぎず、動物では、痛みの程度はさらに評価しにくいと言う。 「偏頭痛の研究などでは、痛みの程度の評価が研究を行う目的の一部である場合もありますが、関節炎の分析などでは、動物に苦痛を味わせたいとは思わないので、鎮痛剤を与えたいと思うのです」。

 英国動物実験連合(BUAV)のサミラ・ガザーネは、新指令には、苦痛の制限を緩和するような例外が多すぎ、また、非常に不明瞭な定義もあり、納得できない、とBBCに語った。

霊長類より齧歯動物

 BUAVなどの動物保護活動家たちは、大型類人猿実験の完全な禁止を求めている。 しかし、指令では例外的な状況、例えば“人間の生命に関わる、あるいはその状態を衰弱させるようなもの”についての研究は認められることになる。

 人間以外の霊長類、サルの実験使用数は、2005年ではEU内で行われた科学実験に使用された動物の0.09%に過ぎず、大型類人猿は全く使用されていない。

 それとは対照的に、欧州委員会の報告によれば、実験の53%にマウスが使用され、そして次に多いのがラットで19%となっている。使用された動物の総数は1、210万匹だった。

 新しい指令では、生きた動物を使用する実験を含むすべてのプロジェクトは、それぞれの国において管轄省庁から事前に許可を得なければならなくなる。これはプロジェクトを公平に評価するためのものだ。また、毎年、少なくとも実験施設の3分の1を検査しなくてはならず、霊長類を使用する施設については、年に1回以上の検査が義務付けられる。

毒性試験

 消費者が使用する化学物質や機器の安全性試験は、動物がよく使用される重要な分野のひとつだ。

 EUは、化粧品実験の動物使用を禁止しており、2013年には、動物実験された化粧品のEUにおけるすべての流通を禁止することになっているが、それまでは、成分検査に動物実験を行った輸入化粧品をEU内で販売することができる。

 しかし、REACHと呼ばれる、有害化学物質を規制するEUの新しい法律は、動物実験の増加につながるかもしれない。

 フェスティング博士は、REACHが動物実験の分野にどのような影響を及ぼすか、まだハッキリしないが、実験総数からすると、かなり少ない数だろうという。一方で、遺伝学、特に遺伝性の疾病に関する研究は急速に拡大しており、これはすべての種類の実験動物の数が増えていくことを意味するのだという。

 また、ヨーロッパでは人口の急速な高齢化が進み、他の動物もだが、人間以外の霊長類の実験に対する需要が増加しており、アルツハイマーやパーキンソンなど、高齢者に多い疾病に対する治療法を発見する競争はすでに始まっている。

 効果の的を絞った薬品の開発も、また、霊長類が特に重宝がられる理由だ。というのも、霊長類は人間の代謝経路を共有する唯一の動物だからだ、とフェスティング博士はいう。

 EUの専門家委員会は、霊長類の免疫システムは人間のものと非常に似通っているため、霊長類の実験はまだ必要であると主張してきた。 また、科学者は、マラリアHIV/エイズ、あるいは重症急性呼吸器症候群(SARS)のような致命的な新興感染症の薬品を開発するために霊長類実験は必要だと主張している。

 動物実験の廃止を求める欧州連盟(ECEAE)はこの見解を否定する。BUAVも参加しているECEAEは、これまでに行われた無数の霊長類実験では、エイズ用ワクチンや、パーキンソン病、脳卒中、その他の命に関わる症状の治療法を見つけられていないという。

情報開示の奨励

 BUAVのガゼインは、EUは動物実験代替法を見つけるための具体的な目標が必要だという。

 新しい指令は、研究者間でデータを共有する土壌を培い、動物実験の重複を防止しようとしている。しかし、専門家は、過去に暴力的方法を使用した動物の権利活動家もいるような状況などもあり、この分野で期待できる透明性には限界があるという。

 また、ヨーロッパの文化や言語における多様性も、また、透明性への障壁となるかもしれない。

2010年4月16日 BBC Online
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/8619605.stm

 

 

 

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