AVA-net 海外 ニュース No.143 2010-7-8 翻訳:宮路正子
学生時代、生物の授業が大嫌いだった。理由はただひとつ、解剖だ。臭いも光景もおぞましく、生物の勉強はあきらめようと誓い、実際にあきらめた。
今日、多くの人同様、動物実験のこととなると、私の理性が心をコントロールする。嫌なものだとは思うが、動物実験は医学研究において重要な役割を果たしていると確信している。動物実験を廃止するために、子供を脅かし、親族を墓から掘り起こし、火炎瓶や殺人の脅迫に頼る過激派とは意見が異なるところだ。
それにしても、動物実験を行っているという非難に耐え、実験に伴う煩雑なお役所仕事を潜り抜ける心構えができている科学者なら誰しも、そのような代償を払うだけの価値があるほど、高水準な研究を確実にするものかと思っていた。しかし、この数ヶ月、ほとんどの動物実験が偏っていて、低水準であるという証拠を目の当たりにしてきて、不信感が高まっている。
数日前、ニューサイエンティスト誌は、マルコム・マクラウド博士の研究を掲載した。マクラウド博士はエディンバラ大学の神経科医で、脳卒中に関する動物実験の分析を行った。博士のチームは、525の論文に含まれる1、300以上の実験を審査し、6つのうちひとつの動物実験が一度も発表されていないことを突き止めたが、おそらくその理由は退屈な、あるいはどちらともはっきりしない現象について説明しているからだろうとしている。
統計分析は、この合計数には、新しい治療法が何ら有益な効果をもたらすことを示さなかった200の発表されていない治験は含まれていないことを示唆しており、この偏りは、新薬の有効性が、最大30パーセント誇張されていた可能性があることを意味する。
マクラウド博士のチームがこの前に行った研究は、このような要因は、多発性硬化症などのような他の疾病を治療する薬品ではさらに顕著である可能性を示唆している。これは、非常に高い割合の薬品、脳卒中の薬では99パーセントが、動物ではなく人間に投与されたときになぜ効果がほとんど見られないかを説明しているのかもしれない。
しかし、気がかりなのは、この偏りだけではなく、実験の方法もである。 昨年、NC3Rsとして知られる英国動物実験3R代替法センターは、動物実験に関する組織的な調査を行った。
その結果、実験の無作為化を報告していたのは、8つにひとつだけだった。
例えば、プラシボ(偽薬)と薬品を比較する場合、各グループに実験動物を無作為に選別しなければ、弱く、捕まえやすい動物を無意識にプラシボのグループに入れ、強く、捕まえにくい動物を薬品のグループに入れるかもしれない。
また、盲検を取り入れていたのは7つにひとつだけだった。盲検は、どの動物が薬品を与えられ、どの動物がプラシボを与えられているか、実験者には分からないようにしたものだ。論文の4パーセントは、実験に使用された動物の数について記述されておらず、さらに詳細に分析した48の研究のうちひとつとして、実験に使用された動物の数について、研究者がなぜその数にしたのかという説明はなかったが、この数字は研究に十分な統計的検出力、つまり、研究結果がたまたまそうなったものではないことを示すために重要なものだ。
NC3Rsの最高責任者ヴィッキー・ロビンソンは、特にそれが人の健康と動物福祉に重要な影響がある場合、研究が十分でないのは、まったく弁解の余地がないという。
なぜ、これほどたくさんの動物実験が二流なのだろうか。これほど多くの劣悪な研究が長い期間継続してきた理由は政治的駆け引きのせいだ。
残念なことに、動物実験に関する統一戦線を張るための、理解できなくはない混戦状態で、科学界が悪意ある反対に直面しているときに、自分たちの同僚に対して批判的になるのは気が重いというのがほんとうのところだ。
内務省は動物実験を厳しく規制しているし、イギリスの福祉基準は他の多くの国のものよりはるかに優れている。 しかし、統計的に意味のある動物の数も含めて、ベストプラクティスの実施を要求するは、そこには含まれない。 そのような方法を導入するのは科学を向上させるだろうが、使用する動物数が一時的に急増するというマイナスなイメージを引き起こすこともある。
この問題に関して簡単なものは何もない。強硬派の動物実験反対活動家は単純明快に廃止を求め、世慣れた科学者は、私の苦言が世間知らずで、役に立たないと言うだろう。 また、イギリスで規制を厳しくすれば、規制が緩やかな国に動物実験が行われることになると警告する人もいる。
しかし、この仕事を擁護するつもりなら、その欠点に関しても正直でなければならない。科学者は動物実験が最高水準であることを確実にし、そのために全力を注いでいるのだということを回りに理解してもらわなければならない。これは動物が不必要に苦しむとか無駄に死ぬというだけの問題ではない。合格レベルに達する動物実験が多ければ多いだけ、より多くの臨床が成功し、お金や命が救われるのだ。
2010年4月13日 The Telegraph
http://www.telegraph.co.uk/science/7582867/Animal-testing-must-be-of-the-highest-quality.html