AVA-net 海外 ニュース No.142 2010-5-6 翻訳:宮路正子
アメリカの科学者が、一般市民の支持を得、活動家による脅迫を制圧しようとするなら、動物実験のメリットについて公の場で議論しなければならない。これが昨日UCLAで行われた画期的な公開討論会での動物実験擁護者の見解だった。討論会では、動物実験擁護者が動物実験反対者と実際に相対して討論を行った。
近年、カリフォルニア大学の科学者たちは、動物の権利活動家による暴力的な脅威に曝されており、ロサンジェルス校やサンタ・クルツ校では火炎ビンによる事件もあった。しかし、イギリス、オックスフォード大学の神経科学者であり、動物実験擁護を公言して活動家からの攻撃に何度も曝されているコリン・ブレイクモアは、イギリスの科学者は、マスコミや一般市民を引き込むことによって、この問題に対する取り組みを進展させており、問題解決には、率直になる勇気を持つしかない、とネイチャー誌に語った。
しかし、そのような対話はこれまでアメリカではほとんど行われてこなかった。
UCLAの神経科学者で動物実験擁護団体、UCLAプロ‐テスト・フォー・サイエンスの創設者、J.デイヴィッド・イェンティッシュは、「科学者は長い間、自分たちがやっていることについて詳しく知りたいという社会の期待に応えてきませんでした。もう、そうすべき時が来ていると思ったのです」という。
イェンティッシュとプロ‐テスト・フォー・サイエンスは、UCLAの動物の権利団体、ブルーインズ・フォー・アニマルズと共同でこの討論会を主催した。討論会は倫理的に相反するそれぞれの側の代表が冷静な討論の席に着くこと、そして動物の権利運動の非暴力の面を示そうという趣旨で行われた。動物実験擁護側から3人のパネリスト、部分的にでも動物実験に反対する側から3人のスピーカーが、集まったUCLAの職員と生徒の前で討論を行った。
しかし、動物実験討論会を開催することがいかに大変であるかが、開催場所の厳重な警備で強調されることとなった。安全への配慮から、主催者側は参加者をUCLAの学生と職員に限定せざるをえなかった。UCLAの神経科学者でプロ‐テストのメンバーであるダリオ・リンガチは、毎日、自分の車の下を覗いて安全を確認しなければならない状況で、こういうことを公開で行うのはむずかしいという。
違いを乗り越える
討論会では何事も起こらなかったが、大学を二分する見解の相違はあきらかだった。例えば、リンガチは、動物実験の医学への貢献は「否定のしようがない」といったが、反対側はこの評価を疑問視した。
カンサス州ウィチタのウィチタ州立大学、科学の歴史と哲学の教授、ナイオール・シャンクスは、動物による毒性研究は人の反応を正確に予測することができない場合が多いという。シャンクスは「医学進歩のためのアメリカ人の会」(AMA)というカリフォルニア州ゴレタに本部を置く非営利団体の副会長を務めている。AMAは、予測モデルとしての動物の使用に反対し、動物実験における科学的問題の定義を目指している。シャンクスは、1950年代後期に使用された抗嘔吐薬サリドマイドは、妊婦が飲んで、生まれてきた子の先天性欠損症を引き起こしたが、動物実験に使用された多くの動物種では、胚への有害な影響は「まれにしか」見られなかったという。
AMAの会長である麻酔医のレイ・グリークは、動物実験反対の立場で討論を行い、大部分の動物実験は人の疾病の治癒に結びついていないことを示すデータを提示した。
カリフォルニアのサン・ホゼ州立大学の哲学者ジャネット・ステムウェデルは、動物の権利は重要な問題だが、人に対する義務のほうが大きい、と動物実験を擁護している。チコのカリフォルニア州立大学の哲学者ロバート・ジョーンズは、動物に対する義務と人に対する義務を区別するのは謝った両断論理だとして、これに反論した。
主催者側は、このような集まりをこれからも開催していく予定で、他の大学や団体が同様のことをするよう望んでいる。参加したパネリスト全員もそのように希望しており、対話を行うことで損をする人間はいない、とグリークはいう。
2010年2月17日
Nature Publishing Group
http://www.nature.com/news/2010/100217/full/news.2010.78.html