AVA-net 海外 ニュース No.141 2010-3-4 翻訳:宮路正子
動物の権利法講座は、医学研究における動物の使用を脅かすか
現在、アメリカの法科大学院の半数以上は動物法の講座を設けており、その中には、連邦動物福祉法で保護されている動物を使用する医学・研究プログラムのある大学に属する大学院も多く含まれている。動物の人道的扱いや福祉の基準を促進する講座が対立を引き起こすことはなさそうだが、動物の権利、あるいは「解放」を擁護する講座は、大学内における敵対勢力を作り、動物実験の将来にとって深刻な脅威となる可能性を持つ。とはいえ、暴力や脅迫の代わりに法律を用いることは、一歩前進としてとらえるべきだろう。
法科大学院入学評議会のウェブサイト(LSAC.org)に掲載されている203の法科大学院の講座リストによると、そのうち111校(55%)には動物法の講座がある。
全米の法科大学院にある動物法や動物の権利を中心に活動している121の学生団体のうち、85の団体が動物法の講座を設けている法科大学院にあり、37の団体が、そのような講座を設けていない法科大学院にある。したがって動物法は、講座、あるいは学生団体という形で、アメリカの148(73%)の法科大学院で取り上げられている。
国内トップ50の法科大学院のうち、36の大学院では、少なくともひとつの動物法講座がカリキュラムに含まれている。動物法講座は、「動物の権利法研究のためのボブ・バーカー寄付基金」(ボブ・バーカーは有名な元ゲーム番組司会者。動物の権利擁護者としても有名)からの寄付のおかげで増えている。この基金は、ハーバード、デューク、スタンフォード、コロンビアなどの大学にそれぞれ100万ドル(約9、000万円)の寄付金を提供している。
このような講座が動物実験に与える潜在的な影響を考慮し、科学者全般との法科大学院の関係を、その母体機関に医科大学院があるか、あるいは母体機関が米公衆衛生局承認の動物福祉保証(動物実験施設の福祉基準を確認するもの)を受けているかによって評価した。83(41%)の法科大学院の母体機関には医科大学院があり、また、138(68%)の機関で動物実験を行っていた。動物法講座のある111の学校のうち、44校(40%)は医学施設と組織的つながりがあり、77校(69%)は動物実験を行う機関内にあった。
現行の米国法の下では、すべてものは、物か人間のどちらかだ。 動物の法的権利のためには、「法的人格権」(personhood)を設ける必要がある。物には権利がないからだ。
米国福祉法は、動物を物とみなしているが、同時に動物を人道的に扱う人間の責任についても強調している。動物に「法的人格権」を与えることは、動物の権利支持者が最も力を入れているものだ(参照:1)。というのは、動物に対する一般市民の認識を変えることが、食物、衣服、娯楽、研究における動物の使用を止めるためのひとつの方法だからだ。
「ペットの飼い主」を「動物の保護者」という表現に置き換え、動物にこれまでとは異なる地位を与えた地域もある。動物実験研究者を、「感覚のある生物」を「搾取」し、「拷問」や「虐待」(研究全般に当てはまる)を行う「生体実験者」と呼ぶことも、また、一般市民に影響を与える。今年(2009年)5月に行われた世論調査では、動物実験が倫理的に許容できると答えた人は57%だけで、2004年の62%より減少している(参照:2)。
アリストテレスは、存在を無生物、動物、人間の3種類に分類したが、将来的にはこの分類法を認めようという動きが起こる可能性もある。
動物は、最終的に人間と同じ権利を享受することはないかもしれないが、動物の世話をする人間の義務について、法律がより具体的になる可能性はある。その一方で、動物の「法的人格権」が認められれば、動物実験との間に対立が生じることになるだろう。
法学教育の変化に向き合わなければ、人間と動物の福祉に必要な新しい方法を開発する能力に長期的な影響を及ぼすことになるだろう。
※P.マイケル・コンはオレゴン州立衛生科学大学、オレゴン州国立霊長類研究センターの研究推進主任。
参照
1. 1999年8月18日付け、ニューヨーク・タイムズ紙「法の先駆者ら、動物の低い地位の向上を探る」
(http://www.nytimes.com/1999/08/18/us/legal-pioneers-seek-to-raise-lowly-status-of-animals.html?pagewanted=1)
2. 2009年5月20日付け、ギャロップ世論調査
(http://www.gallup.com/poll/118546/Republicans-Veer-Right-Several-Moral-Issues.aspx)
2009年12月1日
The Scientist, Volume 23, Issue 12, Page 23
http://www.the-scientist.com/2009/12/1/23/1/