AVA-net 海外 ニュース No.138 2009-9-10
翻訳:宮路正子
イギリスの病院で行われる手術には必要以上の危険が伴う。というのも、医師がプラスチックのダミーではなく、本当の患者で訓練を積み、腕を磨かなければならないからだ、と保健省の主席医務官リアム・ドナルドソン卿はいう。
医師が訓練するためのシミュレーターがほとんどないため、患者が危険に曝されているのだという。
航空機パイロットは、6ヶ月毎にシミュレーター操作によって非常時における対応をチェックされるが、外科医は同様のチェックを体験することなく、その仕事を引退するまで続けることも考えられる。
航空機の乗客が事故で死ぬ確立は、1000万分の1だ。一方、 入院患者は300人にひとりの割合で命を落とすか、非常に深刻な被害を受ける可能性がある。リアム卿はシミュレーション用マネキン購入のための予算を増やし、また、シミュレーション技術のための国立センターの設立を求めていくという。
リアム卿は、年次報告に、外科における安全性は、定期的なチェックが行われないために、航空機の安全性よりはるかに劣っている、と記し、「医学訓練は、'See
one, do one, teach one' (一度見たら二度目には出来なければならないし、三度目には人に教えられなければならない)
という表現で風刺されることが多いが、実際に胆嚢手術をする前に、シミュレーターで100回練習できたら、そのほうがどれほどいいでしょう。私が、胆嚢を取り除かなければならないとしたら、シミュレーターで100回練習を行った医師に執刀してほしいと思います」、と述べている。
2005年に、簡単な手術の最中に命を落としたエレイン・ブロムリーの件がいい例だろう。この手術では、麻酔医が呼吸管をエレインののどに挿入することができなかった。医師たちは、緊急処置として、気管切開で彼女の首からのどに穴をあける代わりに、慌てふためき、20分もの間チューブを挿入しようと悪あがきを続け、その間にエレインは修復不可能な脳障害を受けたのだ。
リアム卿は、去る1月に両方のエンジンが停止した後に、首尾よくハドソン川に着水したUSエアウェイズ1549便における155人の乗客の生存とエレイン・ブロムリーの死を比較している。このような航空機事故で犠牲者が出なかったのは初めてのことだ。
「サレンバーガー機長の音声記録はほんとうに驚くべきものです。彼は冷静沈着でした。というのも、それまでに何度もシミュレーターで緊急着陸の予行演習をしたことがあったからです」
シミュレーターで訓練を行った外科医は、そうでない外科医と比較して手術の速さと正確さが倍であることを示す研究データもある。
しかし、イギリスで研修中の12、000人の外科医と47、000人の医師に対して、精密なシミュレーターは20個にも満たない。一方、英国航空は、3、200人のパイロットの訓練に14個のシミュレーターを使っている。
科学におけるシミュレーターの使用で世界の先頭に立つのはイスラエルで、出血し、呼吸し、麻酔をかけ、蘇生させることができ、また、人間とまったく同じような生命徴候を示す精巧なダミーを使用して、毎年、7、000人の医師その他の医療従事者の訓練を行っている。
2009年3月16日
The Independent
http://www.independent.co.uk/life-style/health-and-families/health-news/surgeons-should-train-on-simulators-like-pilots-1645737.html