AVA-net 海外 ニュース No.136 2009-5-6
報告:宮路正子
2009年3月11日、EU(欧州連合)では化粧品の動物実験が、若干の例外を除き禁止となりました。以後、化粧品の最終製品、原料およびその合成物の動物実験は禁止となり、さらに動物実験を行った化粧品の最終製品、原料およびその合成物の市場流通も禁止となりました。
2本立てになっているのは、市場流通禁止だけでは、動物実験した製品・原料をEU外市場で販売できるため、動物実験自体の継続は可能であり、また、製品・原料の動物実験禁止だけでは、動物実験した製品・原料をEU外で輸入・流通できるためで、法的な抜け道を完全にふさぐのが目的です。
■化粧品の動物実験禁止に至る背景
化粧品に関するEU指令は、1976年7月27日、消費者の安全を確保するとともに、化粧品に含まれる原料、表示、包装など化粧品に関する加盟国の法のばらつきを平均化し、これらの製品のEU市場内における流通を円滑にするために設けられました。
この指令における「化粧品」とは、人体(表皮、頭髪、つめ、唇、外部生殖器)のさまざまな外側部分、歯、口腔粘膜と接触し、これらの箇所を、洗浄、芳香付け、保護によって良い状態に保つ、外見を変える、体臭を抑える目的で作られたすべての物質、または調合物をいいます。
この指令は、これまでに7回改正されていますが、実験動物の保護や代替法(3R)
の概念が盛り込まれたのは、1986年11月24日に「実験その他の科学目的に使用される動物の保護に関する指令」が発効してからです。この指令は動物実験に関するEU内共通の規則を制定し、科学的に適切と認められる代替法が存在する場合には、動物実験に代わりそれを使用しなくてはならないと定めています。この指令によって、EU域内の法律に3Rの概念が導入されて以来、動物福祉はEUにおける重要な政策となりました。
これを受けて1993年6月14日化粧品指令の第6回改正では、化粧品用動物実験の代替法の開発と使用促進を義務付け、動物実験に関する指令とそこに盛り込まれている実験動物の保護について言及し、1998年1月1日より動物実験を行った化粧品原料、および原料化合物を含む化粧品の最終製品の流通を禁止することが盛り込まれました。
しかし動物実験代替法の開発が間に合わない場合にはこれを延期できるという条項が入っていたため、1997年には禁止時期が2000年まで延期され、さらに2002年6月までの延期が決定されました。並行して2000年4月には第7回改正案が公表されたため、2度延期された禁止期限はいったん棚上げされた形となりました。動物実験の禁止は、WTO(世界貿易機構)の規定違反になるのではないかと欧州委員会が危惧したことも、この禁止期限延期の理由のひとつです。
遡って1997年10月2日に調印されたアムステルダム条約(発効は1999年5月1日)には、動物の福祉を尊重し、その保護を改善するという一節が含まれ、以降の化粧品指令の改正の議論では、動物実験指令と共に、その影響が顕著に表れています。
そして、2003年3月11日発効の第7回改正では、動物実験した化粧品の最終製品、原料、あるいはその合成物を含む最終製品の市場流通、そして、化粧品の最終製品、原料、あるいはその合成物の動物実験の禁止などを含む、化粧品関連の動物実験全面禁止に向けて、2004年9月11日までに欧州委員会が最終期限までの予定表を作成・公表することを義務付けました。
なお、化粧品の最終製品の動物実験は2004年9月11日に禁止となりましたが、製品に使用されている原料、あるいはその合成物が、最終製品になる以前に安全性評価試験をクリアしているもので、ある程度の安全性はすでに確認できているというのがその理由です。
化粧品原料およびその合成物の動物実験については、代替法の有効性が評価され、EU法規に採択されるに従い、段階的に実施し、改正された化粧品に関するEU指令の発効より6年後の2009年3月11日以降は代替法の有無に関わらず禁止となったのです。
動物実験された製品の市場流通の禁止は、代替法の有効性評価がOECDの有効性評価過程に準じて行なわれ、EU法規に採択されるに従い、段階的に適用されてきました。
今回の動物実験禁止からは、反復投与毒性試験、生殖毒性試験、全身的暴露試験は除かれ、この3つについては、改正EU指令の発効から10年後の2013年3月11日以降は代替法の有無にかかわらず、全面禁止となります。
■実験廃止に向けての確かな方向性
このように、EUにおける化粧品の動物実験廃止は、当初の予定より大幅に遅れたという批判はあるものの、動物実験は最終的に廃止するべきであるものというゆるぎない姿勢と、それに基づく代替法開発への積極的な取り組み、そして、そこから派生した代替法に対する認識・評価の高さにより実現可能となりました。特に、欧州議会はEU市民の代弁者の集まりとして、終始一貫して動物の側に立ち、EUの行政執行機関である欧州委員会が妥協の姿勢を示すたびに、それに対して徹底的に戦ってきました。
1986年の動物実験指令では代替法の有効性を評価する機関の必要性についても述べられており、それに基づき欧州動物実験代替法評価センター(E
CVAM)が設立されたのは1991年のことでした。そのため代替法の有効性評価・採用が日本とは比べ物にならない速度、規模で進んできたので、化粧品用動物実験を禁止しても、実質、大きな影響はないと思われます。
たとえば、EU加盟国26ヵ国で化粧品用動物実験を行ったと報告しているのはフランスとルーマニアのみで、動物の使用数は、2005年が2276匹、2006年が1329匹となっています。
EUの動物実験指令は現在改正の準備が進められています。欧州議会は大型類人猿の実験使用禁止、野生由来の霊長類の実験使用禁止などの条項を含めるよう求めており、霊長類全般の実験使用禁止を求める議員も少なからずいるようです。こちらについては、次回、詳しく報告したいと思います。
※参考:EUのサイトより