AVA-net 海外 ニュース No.133 2008.11-12
翻訳:宮路正子
新しい研究で、1億1500万匹の動物が世界中で実験に使用されていることが明らかになった。
ドクター・ハドウェン・トラストと英国動物実験廃止連合(BUAV)は、世界中の実験動物数の統計的分析という、これまで行なわれたことのない大きな取り組みを共同でおこなった。この分析結果はピアレビュー誌ATLA (注1)で発表された。
この研究により、毎年、世界中でおよそ1億1500万匹の動物が実験に使われていることが明らかになったが、この膨大な数さえも、数字の収集方法のせいで、実際より少なく見積もられている可能性がある。
世界中で、動物実験に対する一般的、そして政治的関心が高まっているにもかかわらず、国内の動物実験データを実際に収集している国はわずか21%(179ヶ国中37ヶ国)にすぎないことが、我々の研究によって明らかになった。その他の国々は、実験に使われる動物やその動物が経験した可能性がある苦痛について、公式な記録は何もない。
1億1500万匹という実験動物総数は、既知の公式データ、すなわち公式な数字を出している37ヶ国の5000万匹という合計実験動物数を出発点として割り出したものだ。公式データのない国々については、動物実験が係わる論文の比率に基づいた統計モデルを構築し、その結果、142ヶ国から800万匹という数字が加えられた。また、実験には使用されていても、ほとんどの統計からは除外されていた動物、例えば繁殖用遺伝子組み換え動物、余剰動物として処分された動物、組織標本のために殺された動物なども含めた。これらの動物は、科学目的のために飼養され、実験施設内でその一生を送り、‘使用'の終わりには殺されるのだが、それにもかかわらず、ほとんどの国はこういう動物をデータに含めていない。これらの'見えない'動物の推計は、世界中で5700万匹という驚くべき数になり、実験動物総数は1億1500万匹となった。 (注2)
大半の国には公式な統計がないという驚くべき事実は憂慮される。動物実験使用に関する、一般に公開された、正確な統計がなければ、この物議を醸す問題に関して真に公明正大で正直な公開議論を行うことは不可能だ。また、特定分野における動物使用の置き換えに関する進歩やその逆の動きを監視すること、あるいは政府の責任を問うことも不可能だろう。
また、統計をとっている国でも、容認できない重要な脱漏がある。例えば、イギリスでは、余剰動物として、あるいは組織採取のために殺された動物の数は統計に含まれていないが、これらの動物が含まれていれば、内務省の、300万匹を少し上回る実験動物の公式の統計は、500万匹以上に増えるだろう。 (注3)
また、米国では、最低限の統計を正確にとるだけで現在の100万匹余りという公式な統計が、3400万匹という驚くべき数になる。というのも、米国の現在の統計では、実験に使用される動物の93%である、鳥類、ラット、マウス、魚類、両生類、爬虫類はすべて除かれているからだ。
ドクター・ハドウェン・トラストと BUAVは、「自国の実験施設で苦しむ動物の数を数えるということすら重要であるとは考えていない国がほとんどなのはショッキングなことだ。実験動物の公式統計がこれほど法外に少なく見積もられているのでは、21世紀の動物実験の役割に関する明確で偽りのない議論を行うことは不可能である。この現状は、膨大な数の動物の苦しみはまったく無視され、動物実験を現代のテクニックに置き替えるための努力が妨げられていることを意味する。動物実験は、最も物議を醸す動物利用のひとつだと見なされており、そろそろ我が国も含め、世界各国の政府が真実を公にする時期ではないか」、という。
我々の論文にある推算を使って、世界中の実験施設で使用される動物の種類ごとの数も、このたび初めて推算することができた。
世界中の実験動物の種類別推定割合(注4)
動物種 |
割合 |
数 |
霊長類 |
0.15% |
87,510 |
猫 |
0.06% |
35,004 |
犬 |
0.24% |
140,016 |
豚 |
0.30% |
175,020 |
齧歯類 |
83.58% |
105,700,360 |
ウサギ |
1.72% |
1,003,448 |
今回、初めて、動物実験の世界像をひとつにまとめる作業を始めることができたが、動物の苦しみの大きさはほんとうに信じがたいほどだった。人間以外の霊長類が感受性を持っていることはよく知られているのに、毎年9万近くものサルを実験の対象にしているという事実は衝撃的な数字である。
ドクター・ハドウェン・トラストとBUAVは、動物実験を行うすべての国が、動物の使用に関する信頼性のある正確な統計を集め、毎年、発表するための手段を講じることを期待する。また、実験施設で飼養され、いかなる方法においても使われているすべての分野の動物が統計に含まれることを確実にし、‘見えない数百万’の実験動物の数も把握されなければならない。
注記:
(1) テイラー、K.、ゴードン、N.、ラングレー、G.、ヒギンズ、W. (2008)
2005年に世界中で使用された実験動物の推定数。Alternatives to Laboratory Animals
(実験動物代替法)(ATLA), 36(3):327-342.
(2) データを発表している37ヶ国中、1ヶ国だけが余剰として殺される動物の数も統計に入れており、また、余剰動物についての公式調査はひとつしか見つからなかった。繁殖用の遺伝子組み替え動物も統計に入れているのは2ヶ国のみで、細胞採取用に殺される動物を入れているのは6ヶ国だけだった。分かっているデータをもとに試算を行ったところ、‘見えない’種類の動物は次の範囲で統計を増やすだろうと推測される:遺伝子組み換え動物:0.7%から33.7%、余剰動物:38.2%から80.3%、組織採取用動物:2.4%から50.1%。
(3) イギリス政府が推定する余剰動物の割合(80.3%)と、我々が算出した組織採取用、および生物学的製剤に使用される動物の推定数(21.1%)に基づいて推算すると、イギリスは現在、およそ300万匹の実験動物を記録しておらず、これを含めると‘真’の推定数は、2005年に公表された280万匹から実質、倍増して560万匹になる可能性もある。
(4) ここに含まれているのは、欧州連合、日本、米国(齧歯動物は除く)において、平均値を算出するために利用できる十分な比較データがある動物種。米国は齧歯類のデータを記録しないため、齧歯類の推定数は、EUと日本における齧歯類の推定数に、繁殖用遺伝子組み換え動物、そして、余剰として、あるいは組織採取用に殺される‘見えない’数百万の齧歯類の推定数を加えて算出した。
Dr Hadwen Trust 2008年8月13日
http://www.drhadwentrust.org/news/new-research-reveals-115-million-animals-used-in-experiments-worldwide#fn184353201448a43734f32f2