AVA-net 海外 ニュース No.130 2008.5-6
翻訳:宮路正子
昨日(2008.2.14)、、環境保護局(EPA)、国家毒性プログラム(NTP)、国立衛生研究所(NIH)は、新しい化学物質や薬品の人間における安全性を評価する新しい方法を開発・実施するための覚書に署名した。これらの政府機関連合による大胆な計画は、安全性評価のための動物実験に終止符を打つかもしれない。
米国人道協会(HSUS)のマーティン・スティーブンス博士は、「この覚書が動物実験廃止の始まりであると考えているが、(実験方法の)転換過程には10年ほどかかるだろう」、と述べた。
政府機関も、新しい取り組みの科学的な有効性を確証する必要があるため、毒性試験をすべて新しい方法に移行するまでには何年もかかることを認めている。
HSUSなどの動物保護団体は、長い間、化学物質、特に化粧品その他のパーソナルケア製品の安全性検査のための動物の使用に反対してきた。政府機関は、動物実験に対する一般市民の「心地悪さ」、そして増加する一方の新しい化学物質の数と高い実験費用がこの新しい共同作業に拍車をかけたことにも言及している。
実際の数字は分からないが、スティーブンズ博士の「最善の推測」によると、年間およそ1000万匹の動物が毒性試験に使われ、そのほとんどはマウス、ラット、ウサギ、モルモットで、その次にイヌ、サル、その他の種が使用されているという。
これまでは、動物の体内に化学物質を注入し、有害な影響を及ぼすかどうかで毒性の有無を特定してきたが、「この方法はコストも時間もかかり、多数の動物を使用しながらも、常に有効というわけではなかった」、とNIHの国立ヒトゲノム研究所のフランシス・コリンズ所長はいう。
政府機関が使用しようとしている新しいシステムは、試験管で培養されたヒト細胞とコンピューター操作による実験機器に頼るものだ。このシステムによって、科学者は潜在的に毒性のある合成物質を動物の体内に注入する代わりに研究室で調べることができるようになる。
EPAはすでに、この新しい検査方法を使って300の化学物質の評価を始めている。国立毒性計算センターのロバート・カブロック博士によると、第一段階は年内に終わるという。
この方法では、それぞれが直径何分の1ミリメートルほどしかない1、536のごく小さいくぼみのある3X5インチ(7.6X12.7センチ)のガラス製基板を使い、一時に何千もの化学物質の検査ができると、NIH化学物質ゲノムセンターのクリストファー・オースティン所長はいう。
試験管内で培養された何百かのヒト細胞をくぼみに入れた後、実験機器がコンピューターの指示に従って、ひとつひとつのくぼみに違う化学物質を落としていく。それから、しばらくして、それぞれのくぼみにレーザーを照らしていき、細胞がいくつ残っているかを調べる。そして、コンピューターが、細胞の反応をもとにそれぞれの化合物の毒性を分析する。
この方法と比較して、EPAは2500の潜在的毒性化合物を厳しく検査するのに30年を費やしてきた、とNIHのエライアス・ザーホウニ所長はいう。
データはすべて、一般観覧が可能なデータベースに加えられる。
「私たちは、世界中の人々すべてがこれらの貴重な検査結果にアクセスできることが重要であると考えています」と、カブロック博士はいう。
政府機関間の覚書は、2005年にEPAとNTPが毒性検査をより迅速に行おうと着手したプロジェクトの賜物であり、このプロジェクトは、米国研究評議会(NRC)が毒性検査にかかる時間をどの程度短縮できるかについて昨年作成した報告書へと結びついた。
連邦機関は、まず、細胞に基づいた試験が正確であることを確認するために、これまでに動物実験された化合物の検査から行うと、国立ヒトゲノム研究所のコリンズ所長はいう。
ザーホウニNIH所長によれば、動物実験は一晩のうちになくなりはしないが、政府機関の取り組みは動物実験廃止の最初の兆しを示すものだという。
動物実験からの移行が形になり始めたのは、科学者たちが、製薬会社が治療に使用する化合物を検査する方法が、それらの化合物が細胞に有毒であるかどうかを調べるためにも使えることに気づいたときだった。
コリンズ所長は、これが、科学者がいつも期待している類の素晴らしい例のひとつだという。
「ある目的のためにひとつの技術を開発したとします。そして、何ということだ!別のことにもつかえるじゃないか!と気づくのです」
コリンズ所長は、これを1970年代の軍のデータ送信プロジェクトの発展にたとえてこう言った。「誰が、あのプロジェクトがインターネットやウェブに結びつくと考えたでしょう」
2008年2月15日
ABCNews
http://abcnews.go.com/Technology/story?id=4296426&page=1