AVA-net 海外 ニュース No.126 2007.9-10
翻訳:宮路正子
ドイツの科学者は、ブレーメン大学での霊長類実験の中止を求める州議会の決定を、研究の自由に対する容認できない政治的干渉と呼び、非難している。
ブレーメン州の動物の権利活動家は、長年、同大学脳研究センターの神経科学者アンドレアス・クライターのマカクザルの実験に対する反対運動を行ってきたが、5月13日の地方選挙を控えた今、とうとう超党派の政治的支持を得た。
ブレーメン州議会は、先月、クライターの実験免許が更新される2008年末、免許更新を承認しないことを満場一致で州政府に要請した。
その一方で、科学者と動物保護団体の代表からなる委員会が、クライターの研究の科学的価値を再評価し、この研究が非侵襲的方法で代替できるかどうかを判断することになっているが、クライターは、両方とも、実験免許承認機関、地元当局、倫理委員会がすでに行ったと主張している。
州議会も州政府も、センターを閉鎖するよう大学に命じる権限は持たないが、クライターは、政治的圧力により地元当局がこれからの実験を承認しないのではないかと案じている。ドイツの大学における研究への主要な助成金出資機関、DFGのクライナー会長は、この決定が選挙戦への影響を見越してのもので、憲法で保障されている研究の自由を妨げる試みであり、実験承認機関が担当している承認当局が準拠法のみに基づいて決定を下すことを願っている、と述べた。
暴力的な抗議運動に慣れているドイツの霊長類研究者
クライターの研究は、注意などの認知過程に関するもので、電極をサルの脳に挿入する実験を行う。1997年、脅迫状を受け取った彼と彼の家族は警察の保護下に置かれた。その後、脅迫などは治まったが、3月には動物保護活動家が実験に反対する1万5千人の署名をブレーメン議会に提出した。
イギリス、ニューキャッスル大学の脳研究者アレクサンダー・ティールは、動物実験の倫理的是非について考えるのは常に重要なことだが、クライターの研究はすでに法的、倫理的に承認されており、これに対する政治的介入の程度は論外だという。ティールはベルリンのフンボルト大学から教授職を提供されていたが、先週、地元当局がサルを使った視覚注意の彼の実験計画への承認を拒否したため、ベルリン行きを断った。ティールは、イギリスでは実験の承認は内務省が行うので、地方レベルにおけるそのようなあからさまな政治介入はドイツほど一般的でないという。
また、大学を監督する立場のブレーメン州の科学省も議会決定には納得していない。科学省で自然科学を担当する職員は「これは非常に由々しきことだ。ひとりの教授が法的にも倫理的にも承認された研究を行うのを止めさせるなどとは想像しがたい」と述べている。
クライターはDFG、ドイツ連邦科学省、欧州連合など複数の機関から約300万ユーロドル(4億9千万円)の助成金を得ており、今後もブレーメンで研究
を続けるつもりであり、長びく可能性もある訴訟の準備を始めた。委員会はクライターの研究の評価結果を6月に公表する予定だ。クライターは、自分の研究を止めさせるために働きかけてきた同じ人間が自分の仕事を評価するというのは奇妙に思える、という。
「彼らはおそらくできるだけ多くの情報を悪用するだろう」とクライターはいう。
しかし、実験は動物に残酷だと、ウォルフギャング・アペルはいう。アペルはドイツ動物福祉協会の会長であり、クライターの研究に反対する署名活動のオーガナイザーだ。委員会は、実験の中断を求めるだけでなく、段階的に止めていく方法も提案するだろうという。
霊長類の侵襲的実験の中には代替法の存在するものもある。例えば、磁気共鳴機能画像法は脳細胞の大きな集合体の活動を効率的に測定することができる。しかし、視覚注意などの認知過程を研究するためには、個々の神経細胞の活動を測定することが不可欠だが、このためには電極を直接サルの脳に挿入しなければならない。
2007年4月25日
Nature
http://www.nature.com/news/2007/070423/full/446955a.html