動物用チンパンジーの繁殖中止
AVA-net 海外 ニュース No.125 2007.7-8
翻訳:宮路正子
2007年5月24日
米国立衛生研究所(NIH)は動物を使用した様々な生物医学研究への支援を行っているが、このほど、国所有の実験用チンパンジーの繁殖を止めると発表し、動物の権利活動家はこれを賞賛した。
NIHの国立研究資源センター(NCRR)は、国所有の実験用チンパンジーの繁殖を恒久的に止める理由として財政的な理由を挙げている。1995年以来、NCRR管轄下にあるチンパンジーには繁殖モラトリアムが適用されていた。
全米人道協会(HSUS)はNIHの決定には倫理的な理由もあるのではないかと述べている。HSUSは、チンパンジーを実験動物として使用することに反対しており、繁殖を止めるという決定は、NIHが他の手段でも新たにチンパンジーを取得することはないだろうということを意味するという。
チンパンジーは生理的、遺伝学的に人間に近いため、医学研究に使用され、多くの科学者はその使用を擁護しているが、動物の権利支持者は倫理的な立場から批判してきた。
HSUSのキャサリン・コンリーは声明の中で、NIHの決定はチンパンジーが侵襲的な生物医学研究や実験に使用されなくなる日の実現に向けた大きな一歩だと述べている。
「重要な決定」
コンリーはまた、この決定が研究施設で寿命60年といわれるその一生を過ごさなければならなかった何頭かのチンパンジーを救ったことになり、すでに研究施設にいるチンパンジーの助けにならないとはいえ、重要な決定であるとし、HSUSの最終目標は、チンパンジーの研究への使用を廃止し、実験用チンパン
ジーを恒久的に適切なサンクチュアリへ引退させることだという。
HSUSによると、NCRR所有のチンパンジーには、実験施設にいる500頭とすでに実験には不用とされ、連邦政府のサンクチュアリにいる90頭が含まれる。
NCRRはHPに掲載した声明の中で、生物医学研究におけるチンパンジーの重要性はこれからも変らないことを認識しているが、すでにチンパンジーをケアしている場合の健康と幸福を維持する「受託者の責任」についても触れている。
NCRRによると、チンパンジーは人間の飼養下で少なくとも50年生存することができ、1頭にかかる費用は一生で50万ドル
(約7,250万円)にも上る場合があるが、NCRRは他のプログラムや資源に対する財務的責任も果たさなければならず、現存のチンパンジーという研究資源を慎重に検討した結果、NCRR
は所有するチンパンジーの繁殖を行うための予算はないという決定を下した。
しかし、NCRRは、生物医学研究に不用となった個体を収容している連邦政府のチンパンジー・サンクチュアリを含めてチンパンジーを収容している既存の施設に対してすでに約束した責任はこれからも果たしていくつもりである、ともいう。
動物の権利団体プロジェクト R&R(アメリカの実験施設にいるチンパンジーの解放と賠償)によると、現在アメリカの実験施設にはおよそ1,300頭のチンパンジーがいる。赤ん坊のときにアフリカで野生から捕獲された個体もいれば、実験施設で生まれた個体、動物園、サーカス、動物の調教師のところから来た個体もいる。
プロジェクト R&Rの事務局長シオドーラ・キャパルドは、米国だけではなく、世界的に、チンパンジーが実験研究に使用されない日が来ることを望む人が増えているいう。
Reuters
http://www.reuters.com/article/scienceNews/idUSN2438996920070524