試験管の中の乳がん
AVA-net 海外 ニュース No.125 2007.7-8
翻訳:宮路正子
2007年5月9日
英ロンドン大学クイーンメアリー校の研究者チームが人間の乳がんの実験室における3次元モデルを開発
正常細胞と腫瘍細胞の両方を有する3次元モデルは、乳がんが初期段階にどのように発症するかを専門家が理解する手助けとなり、また、動物実験の置き換えになるかもしれない、と開発チームは考えている。
このモデルは非浸潤性乳管がん(DCIS)として知られる早期乳がんを模しているが、乳がんの5つにひとつはDCISから発症している。初期段階でがんと診断される女性の数が増えているので、新たな治療法につながる可能性もある。
クイーンメアリー校がん研究所胸部病理学のルイーズ・ジョーンズ教授は、早期において細胞ががん細胞へ変化し、より大きな腫瘍に成長していく過程についてもっと詳しく知るためには、シャーレに置かれた1枚の細胞より複雑な試験管モデルを開発する必要があったので、その代わりに、胸部の正常細胞とがん細胞から3種類の細胞を培養したのだという。
そして、コラーゲンジェルを使用して立体的な構造を形成することで、胸部で細胞が構成される様子に似た構造を作り上げることに成功した。
チームは健康な胸部組織から採取した筋上皮細胞という種類の細胞が乳がん性細胞の成長を抑圧できること、がん性の胸部筋上皮細胞にはこの働きがないことを発見した。また、腫瘍から採取した線維芽細胞は細胞培養のような分泌腺(皮膚、粘膜など)の構造を混乱させるが、健康な線維芽細胞はそのようなこ
とをしない。
細胞がなぜこのように活動するのかを解明することは、医師が早期がんの患者で治療が必要な患者を見極める手助けをし、新しい治療の開発に向けた道を開くだろうとジョーンズ教授はいう。
動物の代替
また、このモデルは人間の腫瘍を移植したマウスなどの動物を使って行う実験を置き換えることができるかもしれない。がんのマウスモデルは人間のがんとは異なる病状を示し、代替法開発への関心が高まってきている。
「3次元で細胞を培養したので、ふつうは動物実験によって得る複雑性を得ることができ、これは非常に大きな前進だと思う。このモデルの有効性が認められれば、たとえ動物実験を置き換えられなくても、削減することは確かだ。検査のおかげでDCIS
を発見する頻度が増えており、実験室ではなく臨床の場での問
題となりつつある」、とジョーンズ教授はいう。
この研究の資金を提供したドクター・ハドウェン・トラストのニッキー・ゴードンは「乳がんについては、動物実験モデルでは人間のがんとの類似性が非常に乏しいため、それ以外の方法へ早急に移行する必要がある。信頼できない研究は貴重な時間
とお金、そして動物だけでなく人間の命をも無駄にする。この3次元乳がんモデルがとても期待できそうなので喜んでいる。さらなる研究が必要だが、状況は有望視でき、これは本当に乳がん研究を変革する可能性がある」と述べている。
イギリスのがん研究所の科学情報官ジュリー・シャープ博士は、この技術は早期乳がんについて実験室で研究するための新しい方法を提供し、期待通りであれば、このタイプの研究のための動物モデルの必要性を減少させる可能性がある、といっている。
BBC News Online
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/6636373.stm