【ヨーロッパ連合】
実験その他の科学目的に使用される動物の保護に関する
欧州理事会指令Directive86/609/EECの改正
AVA-net 海外 ニュース No.124 2007.5-6
翻訳:宮路正子
1986年、欧州理事会は実験その他の科学目的に使用される動物の保護に関する欧州理事会指令Directive86/609/EECを採用した。この指令は実験動物を使用する際の管理の向上を目的としており、動物の居住・飼養、動物を取り扱うスタッフの育成や実験の監督に関する最低基準を定めている。この指令は、また、代替法が存在する場合には動物実験を行わないこと、動物実験に代わる代替法の開発と評価を奨励することにより、実験に使用される動物数の削減を目指しており、これが1991年、欧州委員会が欧州代替法評価センター(ECVAM)を立ち上げる土台となった。
指令の言い回しは国際条約に基づいているため、かなりの数の条項は複数の解釈が可能だし、いくつかの条項の文体はその性質として実際の規定というより政治的な色合いが強い。また、倫理的レビューの過程や実験許可の義務を含んでいないばかりか、3Rsの概念についても明確に言及していない。3RsとはReduction(削減)、Refinement(苦痛の軽減)、Replacement
(置き換え)(Russel and Burch 1959)を指し、実験動物の使用を最小限にするアプローチとして一般に認識されている。
近年、実験動物の福祉を向上し、代替法をさらに促進するために指令改正の必要性がますます明らかになっている。1986年以来、科学における重要な進歩が見られ、トランスジェニック(遺伝子組み替え)動物、異種間臓器移植、クローニングのような新しい技術も可能となった。これらは特定の注意を必要とするが、現在の指令にはそれが含まれていない。また、人間以外の霊長類のように、神経生理学的により高度な感性を持つ動物を使用する場合にも特定な規制がない。
最後に、欧州の条約は現在、動物福祉の要件を正式に認識している。アムステルダム条約に付帯された動物の保護と福祉に関する議定書は、「共同体の農業、運輸、市場、研究に関する政策の策定と実施において、共同体および加盟国は、動物福祉の要件に十分な配慮を行わなければならず、その際、とくに宗教儀式、文化的伝統および地域遺産にかかわる加盟国内の法的ないし行政的措置と慣習とを尊重するものとする」としている。
EUROPA (欧州連合ポータルサイト)
http://ec.europa.eu/environment/chemicals/lab_animals/revision_en.htm
現在の活動と次のステップ
欧州委員会は、実験その他の科学目的に使用される動物の保護に関する欧州理事会指令Directive86/609/EECを改正する際の選択肢について、予備的影響評価を行う。技術専門家作業部会(TEWG)の結論と動物の健康と動物福祉パネル(AHAW)の科学的意見は2006年中に行われる予定の影響評価によって、さらに詳細に吟味される。
TEWGの結論、AHAWの科学的意見、そして予備的影響評価を基に、委員会は2006年6月16日から8月18日まで、複数の選択肢について一般の利害関係者を対象とするコンサルテーションを行い、一般市民や利害関係者に、政治的性質なものも含み、それぞれの見解や議論を提出する機会を提供した。影響評価には、このコンサルテーションの結果も考慮される。
動物福祉を向上し、動物実験分野における域内市場を機能化するために委員会が現行法改正への提案を準備する際には、コンサルテーションの結果も考慮される。提案は委員会での採択後、欧州議会と評議会に送られ、新指令採択の法的手続きが取られる。このプロセスは2007年初旬に開始され、少なくとも2年はかかるだろう。
小史―Directive86/609/EEC改正のための準備活動
2002年、改正に向けた準備作業の一環として、環境総局総局長は動物の健康と動物福祉に関する科学委員会(SCAHAW)に、実験に使用される人間以外の霊長類の福祉に関する見解を求め、SCAHAWは2002年12月17日、公式見解を採択した。
同時期、欧州議会は、欧州委員会が動物実験指令の改正を提案することを求める報告書を作成、2002年11月13日に採択した。
2003年、環境総局総局長は指令改正のための科学的・技術的な背景情報を集めるために技術専門家作業部会(TEWG)を編成した。加盟国、加盟決定国(現在は加盟国となっている)、業界、科学界、学術界、動物福祉団体からの専門家は環境総局の用意した一連の質問への回答を行った。TEWGの結果は指令改正のための重要な見解・参考材料を提供している。
2004年、欧州食品安全機関の動物の健康と動物福祉パネル(AHAW)改正に関連してさらに4つの質問についての科学的意見を提出するよう指示された。改正の範囲に何種かの無脊椎動物と胎児・胚型は含まれるべきか、どの動物を実験使用目的に繁殖させるべきか、そして人道的安楽死の方法の特定である。意見は2005年11月14日に採択された。
EUROPA (欧州連合ポータルサイト)
http://ec.europa.eu/environment/chemicals/lab_animals/nextsteps_en.htm
EU動物実験指令の改正:
欧州委員会のオンライン・パブリックコメント募集の結果
概要
実験その他の科学目的に使用される動物の保護に関する欧州理 事会指令Directive86/609/EECの改正を行うにあたり、欧州委
員会は2006年中旬、EU市民を対象にオンライン・パブリッ クコメントを募集し、同時に、特定の動物福祉問題に関する専
門家からの意見も求めた。
両方の結果は2006年12月にオンラインで発表された。
EU市民の圧倒的多数は、実験動物の現在の保護は不十分であり 、これらの動物の福祉水準を改善する努力が必要であると答え
、また、動物をいつ、どのように実験に使用することが許容で きるとみなされるかの判断におけるいっそうの透明性と一般市
民の関与、そして動物実験代替法のための研究のさらなる促進 も求めている。
その他に、専門家は、指令の適用範囲を広げ、基礎実験に使用 される動物も含むこと、そして、明確な倫理的レビュープロセ
スを含む必須の認可過程を設立することを求めている。
動物実験を行った際の事後分析の導入に伴う影響について提出 された予測は、ちょうど野生において捕獲された霊長類とその
子供の実験使用禁止に関する様々な選択肢について提出された 意見と同様、物議を醸すものだ。
全般的に見て、パブリックコメントの結果と専門家のコンサル テーションは両方とも、EU中において実験に使用される動物の
保護を改善する必要性を正当化するための説得力のある根拠と なっている。
ジョンズ・ホプキンズ大学動物実験代替法センター (CAAT)
http://altweb.jhsph.edu/publications/journals/altex/2007_1/altex2007_1f.htm
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