【カナダ】
実験動物の苦痛軽減を
取り扱いの統一を求めるカナダの研究者たち
−目標は世界中の実験施設において動物の苦痛を最小限に抑えること
2006年5月5日
Toronto Star Newspapers Limited
AVA-net 海外 ニュース No.120 2006.9-10
翻訳:宮路正子
カナダの研究者は、世界中の実験動物の身体的・心理的な苦痛を最小限に抑えようとする活動の先頭に立っている。動物福祉の専門家たちは、人道的実験のテクニックとプロトコルを世界レベルで「統一」することによって、すべての実験動物の不必要な苦痛を軽減させ、研究と実験過程で達成される科学を向上させようとしている。
動物を実験に使用する際、苦痛を引き起こす場合もある。私たちは、世界でまだ十分なテクノロジーを持たないすべての国の研究者と人道的処置法を共有しなければならない、と国際実験動物委員会(ICLAS)の委員長ギレス・ディーマーズ博士はいう。
今日付けのScience誌には、この世界レベルでの動物福祉基準を求める内容の論文が掲載されている。
ディーマーズ博士はカナダ動物管理委員会 (CCAC)のアセスメント・ディレクターでもあるが、現在、動物実験における人道的処置法を管理する規則は国や地域によってまちまちであり、特に経済的に豊かでなく、これまでにレベルの高い科学研究があまり行われてこなかった国では、動物実験を行う際に、実験動物の快適さや福祉について最小の配慮しか払われないこともある、という。
しかし、人道的原則や適切な管理を行うためのガイドラインを研究者に提供すれば、必然的に管理の質は向上し、より良い科学へと通じることになるし、また、雑な扱いと苦痛は実験動物にストレスを与え、そのストレスが実験結果をひどく歪めることはよく知られているという。
また、人道的原則が国際的に遵守されなければ、動物の管理と使用に関する基準の差によって、動物実験に対する基準がよりゆるやかな国へと移っていく原因にもなりかねないという憂慮もある。
ディーマーズは中国でカナダのものに準ずる実験動物プログラムを設立するための協力を要請されているが、管理基準を統一することは全体としてみた場合、動物実験の削減に通じるという。
現在のように管理基準が千差万別であると、ある地域で行われた実験結果が別の地域で受け入れられるためには、追加の実験が必要になる可能性もある。しかし、実験手順を統一すれば、1回の実験が世界中のどこでも受け入れられる結果を提供することができるので、重複して実験を繰り返す代わりに、結果を再現するには1、2回の実験で十分になる。
動物の人道的取り扱いを促進するために論文で挙げられている原則は以下の通り。
・実験は、死、あるいは極端な苦痛が起こる前に終了されなければならない。 例えば、誘発された疾病の最初の兆候が現れたとき、研究は、その科学的目的を考慮しつつ、苦痛を最小限に抑えるように計画されなければならない。
・実験チームには科学者、獣医師、動物管理の専門家を含め、チームメンバーは「種特有」の苦痛のシグナルを見分けられるようトレーニングされていなければならない。
・動物を安楽死させるときには、「最高の敬意」をもって扱い、安楽死は最も苦痛の少ない方法を用い、トレーニングを受けている人間が行わなくてはならない。・倫理委員会が、実験動物の種類ごとの最適の安楽死方法を決めなければならない。
また、痛みをやわらげるために動物には鎮痛剤を与え、トラウマを最小限に抑えるために他の動物が見える、快適なケージかペンに収容するべきであり、これらの原則が広く採用されれば「痛みと不快感の減少は確実」であるとディーマーズはいう。
Animal Alliance of Canada の代表ジャッキー・バーンズは、この論文を「動物福祉に関する肯定的な動き」と好意的に受け止めているが、自主的なガイドラインは世界の多くの国で実質、効力がないことが判明するであろうから、実験動物を保護するのには進歩的な立法による規則が必要だという。
カナダにおいてさえ、動物実験は秘密裏に行われ、動物の権利活動家は、実験が人道的に行われているという研究者の言葉をその通りに受け取るしかない。
カナダの研究者たちは、すべての基準は遵守されていて、自分たちが扱う動物は人道的に飼養され、実験されている、と言うだろうが、それではそれを証明して欲しい、といっても秘密事項扱いだからできない。カナダで人道的取り扱いが公に提示することができないとすれば、発展途上国ではもっとむずかしいだろう、とバーンズはいう。
2006年5月5日
Toronto Star Newspapers Limited
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