【フィンランド】
まだ現実的でない異種間臓器移植手術
AVA-net 海外 ニュース No.117 2006.3-4
翻訳:宮路正子
ウィーンの外科医H・ウルマンがブタの腎臓を人間の腕に移植した1902年以来、異種間臓器移植は科学界では取り扱いに注意を要する問題となっている。ウルマンの手術は失敗に終わり、以降の試みも成功したものはない。1966年から1993年の間に、サルから人への肝移植が11件、ブタから人への肝移植が1件行われたが、手術を受けた人間はすべて術後2、3ヶ月以内に死亡した。
ヘルシンキ大学中央病院の移植・肝手術部部長のクリステル・ホッケルシュテット教授は、自分の恩師たちが言うように、異種間臓器移植は30年前からずっと実現間近にあって、今もまだそこにとどまっている、という。
異種間臓器移植に関する問題には、人間の免疫システムが動物の組織を拒絶すること、危険なウィルスが感染する可能性、そして倫理的問題などが含まれている。サルとブタが、人間への臓器ドナーとしては最適であることは判明したが、ブタタンパク質は人間のものとは異なる。ブタの血液にある糖分分子への抗体が人の血液内に存在し、この抗体がわずか数分で移植された臓器を破壊するタンパク質を作り出す。
2つの種が非常に近い関係であっても、その間には無数の細かい違いが存在し、異種間臓器移植をかなりむずかしいものにしている、とホッケルシュテット教授はいう。しかし、異種間臓器移植の研究は非常に活発に行われており、また、いくつかの進展もあった。
拒絶反応はブタの遺伝子を操作することで一部防ぐことができる可能性がでてきたし、拒絶反応に対処する薬物療法もブタとサルの間の移植で実験された。
将来、ブタかサルの臓器を利用できるようになるかもしれないが、移植の必要性は増え続けている。2004年には、記録的な276の移植手術がフィンランドで行われた。また、腎臓移植を待つ患者だけでも300人いる。毎年、およそ20から30人の人が、移植を待ちながら死亡している。
動物の臓器の代わりに、この問題を解決する他の方法を見つけなければならない。
個人的には、脳死した人々からの臓器移植を増やすことが解決策になると思う、とホッケルシュテット教授はいう。
2006年1月
ヘルシンキ大学
http://www.helsinki.fi/research/news/2006/week1.htm
|