【アメリカ】
穏当な提言:動物実験施設の透明性を求める
2005年10月10日 ロバート・バス
AVA-net 海外 ニュース No.116 2006.1-1
翻訳:宮路正子
■実験施設の映像を公開
2005年春、動物の倫理的扱いを求める人々の会( PETA)は生物医学研究の大手企業Covanceの米ヴァージニアにある施設で隠し撮りをしたビデオフィルムを公表した。ビデオに写っていたのはショッキングなサルの虐待シーンだった。
Covanceの従業員は、動物を打ち、大声で怒鳴り、ひどい損傷を負っていても何の手当てもせずに何週間も放置していた。
このビデオなどを基に正式な訴えが起こされ、現在、米農務省(USDA)が調査中だ。
このビデオはwww.covancecruelty.comで見ることができるので、動物が仲間から隔離され、殺風景な小さいケージに入れられている様子や、打たれ、おびえているところを、想像するのではなく、実際に見て欲しい。ひとつの映像が千の言葉に優るというのはほんとうだ。
PETAのビデオ公表後、Covanceは沈黙したままだ。 イギリスでは、ビデオテープの公表を禁止する法廷命令を取り付けようとしたが却下された。Covanceはこの決定を不服としていったんは上告したが、その後取り下げた。Covanceのサイトを見た人が、この件は会社にとって全く重要ではないのだと思っても不思議ではない。イギリスでの件には一切触れておらず、また、ビデオに写っていた従業員が、いかなる形にせよ処罰を受けたという記録も一切載っていないのだから。
唯一、この件に触れているのは05年6月6日付けの同社プレスリリースで、同社がPETAとPETAの覆面捜査員に対して訴訟を起こしたことを報告している。
訴えの内容は名誉棄損、あるいは悪意ある誤伝だろうか。Covanceは、ビデオに撮られた事件が実際には起こらなかった、あるいはどこか他の場所で撮影されたものが、誤ってCovanceの施設で起こったとされていると信じているのだろうか。そうではなく、PETAの覆面捜査員が、真の意図を偽って就職し、社との守秘同意に故意に違反したとして訴えているのだ。Covanceは、また、覆面捜査員と共謀して会社の経営に損害を与え、社と捜査員の契約履行を妨げたとして、PETAも訴えている。
Covance は、PETAの捜査員が就職時に嘘をつき、守秘の約束を破ったという。 言い換えれば、事件が起こったことについては否定していないようで、ただ、それが起こったことを世間に公表するPETAの権利に異議を唱えているのだ。
■どちらが真実か
これは、Covanceの動物福祉に関する声明を考えてみると、非常に憂慮すべきことだ。サイト上で、同社はこのように主張している。
「安全性を推し進める前臨床試験の創薬およびその他のサービスを提供する世界でも有数の企業の1社として、弊社は、その保護下にある動物に対し、確実に規定に従い、高い水準を誇る尊敬心と慈悲心を持って世話に当たるという、リーダーとしての法的および道義上の役目を果たす義務があることを承知しております」
「私たちの保護下にある動物を尊敬心を持って扱います。私たちの保護下にある動物が、救命につながる医学の発展に貢献していることを尊重し、しかるべきの尊敬心を持ってこれらの動物を扱います」(Covance
ジャパンのサイトより)
ビデオフィルムから判断すると、Covanceが動物に払ってしかるべきと考えている敬意はたいしたものではないようだ。
このビデオを見た後では、特にシニカルな人間でなくとも、Covanceの動物福祉に関する声明は、言葉通りには受け取れないと思うだろう。そして、わたし同様、動物実験が人間の健康にとって、いったいどれほど必要なものなのか疑問を抱くだろう。というのも、動物実験が必要かつ有益だとこうも繰り返し主張するのが、Covanceのような企業や、バイオテクノロジー産業協会(BIO)、全米生物医学研究協会といったところだからだ。このような企業や団体にとって、動物実験の必要性うんぬんは財政的な問題が係わってくる。
■動物実験の透明性を求める
しかし、議論のために、このような疑問をいったん脇に置こう。Covanceが動物福祉への配慮を真摯に考えており、その保護のために妥当な対策を実施するつもりがあると仮定した上で、穏当な提言をしたい。
これは、Covanceに対する疑惑を取り除き、動物の福祉を憂慮している人たちに動物がきちんと扱われていると納得させ、PETAや他の調査員が法を犯してまで情報を収集しようとは思わなくなるものだ。
これは穏当な提言である。というのは、動物実験の英知や必要性は疑問視しているが、Covanceが行っている動物実験をこれまでと何ら変えるべきだというつもりはないからだ。私の提言を受け入れても、これまで同様に動物実験を、同じ方法で、同じクライアントのために、同じ動物を使って行うことができる。
要望はただひとつ。透明性だ。 Covanceがしていることを世界中の人々に見せるのだ。ティーンエイジャーが自分の寝室にウェブカメラを持ちこみ、24時間リアルタイムで映像をインターネットに流すことのできる時代なのだから、Covanceの動物飼養施設や実験施設に同様の装置を取り付けるのは簡単なことだろう。
世界中の人に、Covanceが本当に、法的、倫理的義務に従って、敬意と思いやりを持って動物を扱っているのを見せてほしい。
それとも、Covanceには隠さなければならないものがあるのだろうか
◆ロバート・バス博士はノースキャロライナ大学哲学科の客員助教授。現在は政治及び人間の動物の扱い方と徳倫理の関係を研究している。
The American Daily
http://www.americandaily.com/article/9635
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