【アメリカ】
動物実験施設と危機管理 −
長年の研究がハリケーン・カトリーナの洪水で
失われる
ABC NEWS Online 2005年9月13日
AVA-net 海外 ニュース No.115 2005.11-12
翻訳:宮路正子
危険な研究施設
洪水による水位が上昇し、ニューオーリンズが水没しつつあるそのとき、ルイジアナの著名な疫学者ラタール博士は州警察と共に、高セキュリティの政府研究施設に押し入り、危険な細菌が外部に漏れ出たり、悪用する人間が入手したりする前に破壊した。
ラタール博士らは、ボルトカッターと漂白剤を手に「ホットラボ」(バイオハザードの高レベルに分類される生物−特に微生物、細菌、ウイルス−を扱う研究施設)と呼ばれる施設に入り、すべての生体サンプルを処分した。
危険な細菌を使っての研究に、自ら、突然に終止符を打つことになったが、ラタール博士は、こうするしかなかったのだ、と淡々と語った。しかし、細菌が何だったのかは明らかにしていない。
しかし、ラタール博士のチームは、少なくとも、重大な科学的データの入っているコンピューターを回収することができた。同じ地域の他の科学者の多くは、それほど運が良かったわけではなく、何年もかけた研究をハリケーンで破壊されるか、自ら処分する破目になったのだ。
2001年にテキサス・メディカル・センターに甚大な被害を引き起こしたハリケーン・アリソンによる激しい洪水以来、科学研究のこれほど大規模な中断はなかった。ニューオーリンズ市の医師や研究者は一夜にして、自分の研究施設に入ることができなくなり、いつ戻れるのかも分からず、患者の診察もできなくなった。
何千頭もの実験動物−多くはガンのような人間の疾病の遺伝子を組み込まれ、細心の注意を払って繁殖・飼養されていた−が、溶ける解凍してしまった身体組織サンプルと共に放棄された研究施設で死んだ。
実験動物8,000匹が命を失う
ニューオーリンズのチューレイン大学やルイジアナ州立大学(LSU)医学大学院の研究者は、心臓病、ガン、エイズ、そして他の多くの疾病に関する重要な研究を奪われた。LSUはマウス、ラット、イヌ、サルなど8,000匹の実験動物をすべて失った。多くは溺死し、溺死を免れた動物も食物や水がないために死亡した。そして、残りは安楽死させた、とLSU
の衛生科学センター大学院の学部長ホリヤー博士は述べた。
貴重なデータも消失
国立衛生研究所の初期調査によると、チューレイン大学の153のプロジェクトなど、ニューオーリンズ市内の大学で進行していた、連邦政府から助成金を得ている1億5000万ドル以上の価値がある300ほどのプロジェクトが何らかの影響を受けたという。
中でも大きな打撃だったのは、ボガルーサ心臓病研究プロジェクトに登録されている何千人もの患者から集め、冷凍保存してあった尿と血液が破壊された可能性が高いということだ。この研究は人種による心臓病の危険因子に関するものとしては世界で最も長い間続けられているものだ。
ABC NEWS Online
http://abcnews.go.com/Health/HurricaneKatrina/wireStory?id
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