【アメリカ】
Public Library of Science
(PloS)の退行
2005年8月30日 ジョン・J・ピピン
AVA-net 海外 ニュース No.115
2005.11-12
翻訳:宮路正子
2005年の今、動物実験が人間の疾病には何の関連性もないことを分かっていないのは、動物実験のことを理解していないか、それによって利益を得ている人々だけだ。私は、医師、臨床研究者、そして元動物実験研究者として、霊長類は遺伝的に人間にもっとも近い親類だが、実験モデルとしては使用された研究すべてにおいてといっていいほど失敗していることを知っている。
失敗した実験のリストの一部として、まずよく知られている強制喫煙実験を挙げさせてもらいたい。この実験のおかげで、何十年もの間、おおっぴらにタバコの宣伝をすることができた。そして、四半世紀におよぶ霊長類を使ったエイズの実験は、いかなる有用な知識も提供することはできなかった。ポリオの研究は、誤った知見と危険なワクチンを作り出した(これはアルバート・セービン自身が証言している)。
また、出産時障害や早産を減少させるための霊長類実験もうまくいかず、非ステロイド性抗炎症薬が心臓血管におよぼす副作用もサルの実験では確認できなかった。(1)
PLoS Medicineの編集者は、期待に満ちた表現で、ラッサ熱ワクチンが4頭のサルを使った実験で成功しており、人間の臨床試験に使用可能な薬品であると述べている。(2)
しかし、VaxGenのエイズワクチン(AIDSVAX)が霊長類実験では大成功だったが、2つの人間の臨床試験では悲惨な失敗に終わったことを思い出してほしい。ひとつはタイで2、500人の麻薬使用者を対象に行った試験(3)で、もうひとつは複数の国で、エイズ感染リスクの高い人間5,000人を対象に行ったものだった。(4)
霊長類を使ってエイズ・ワクチンを作り出そうとしてきた何十年もの成果のない研究、実験に使用した霊長類において、人間におけるエイズと同じ症例をただの一例も再現できず、霊長類実験から有効なエイズ薬をひとつも発見できなかったことを考えてみてほしい。
遺伝子的、生理的原則を考慮すれば、どんな動物モデル、高等霊長類さえも、人間に適用できる知識をもたらさないことは当然だ。
ヒトゲノムプロジェクト(5)のおかげで、人間という一つの種の中に存在する遺伝子的多様性でさえも非常に幅広く、薬理遺伝学や薬理ゲノム学の技術の、ポリモフィズム(多型)や他の変異要素に関する問題を克服するための役割がより増えていくことがわかった。
科学研究結果を人間に一様に適用することさえできないのだ。それなのに、PLoSMedicineはいまだにサルの実験を促進しようとしているのか。
PLoS Medicineが動物実験についての記事を掲載するほど退行したことに非常に失望している。
生物医学が急速に進歩し、動物実験が歴史のごみ入れへと適切に処分されていくこの時代、PLoSが、時代錯誤で、医学的に信憑性に乏しく、非倫理的な研究方法をあえて再び紹介したのには失望している。
(文中参照文献1〜5は省略)
※著者のビビン氏は、責任ある医学を目指す医師委員会(PCRM)の医学研究コンサルタント
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