【アメリカ】
動物実験を超えて−拒食症の研究は臨床で
2005年9月 ジョナサン・バルコム
AVA-net 海外 ニュース No.115 2005.11-12
翻訳:宮路正子
◆拒食症と動物実験
子供の頃、家族ぐるみの付き合いをしていた友人が、選り抜きの生徒ばかりを集めたバレエ・スクールに通っていた10代のとき、拒食症になり、もう少しで命を落とすところだった。拒食症は、およそ200万人のアメリカ人、そのほとんどが若い女性、を苦しめている深刻な疾病だ。
当然ながら、拒食症その他の摂食障害を理解するために協力体制でさまざまな努力が行われている。神経性食欲不振症(拒食症の正式名称)を、米国立衛生研究所(NIH)のオンライン医学文献データベースで検索してみると、8,600以上の文献がヒットした。ほとんどは、人間の臨床試験データだが、そうではないものもあった。多くの研究者が、動物実験、通常、(オスの)ラットで実験を行うための研究費を受け取っている。
しかし、齧歯動物は自然な状態のままでは摂食障害を起こさず、実験者が、そのような「動物モデル」を作らなければならない。
そのようなモデルのひとつが、「過活動性拒食症」(ABA)、あるいは、「準飢餓状態が引き起こす過活動」(SH)
モデルで、これは飢餓と運動を結合させたものだ。実験者は、ラットを飢餓状態におき、運動用ホイールをラットの靴箱ほどの大きさしかないケージに入れる。
食物を見つけるのに必死だからであろうが、飢餓状態のラットはホイールを過度に使用し、結果、体重の減少が加速される。これは自らを空腹状態に置く人間の患者の間で一般的な過剰な肉体的活動に似た行動だ。
ABAモデルを使った最近の研究をいくつか挙げてみよう。
ユトレヒトの大学医学センターの研究では、飢餓状態で運動させたラットに、レプチン(血中タンパク質)を脳に注入すると、それまでより運動量・食餌の量が減少した。(1)
フロリダ州立大学では、食餌が可能な時間を1日2時間と制限して、ラットを飢餓状態においた。 運動用ホイールを与えられたラットはABA状態となった。 回復期間(ふつうに食餌ができる状態)中、食餌量は増え、運動量は減った。(2)
ブリティッシュ・コロンビア大学では、200匹のラットを、ラットの身体がやっと入る大きさのシリンダー状容器に、20分、2時間、5日の間毎日2時間と期間を3つに分けて押し込み、拘束によるストレスが食物脂肪、炭水化物、タンパク質の吸収においてどのような役割をしているのかを調べた。(3)
ニューファンドランドのメモリアル大学では、ラットのABAモデルを、1日90分の食餌時間を除いて運動用ホイール上に拘束した。コントロールグループ(運動用ホイール上に拘束されなかった群)は体重が減少しなかったが、拘束されたグループは食餌量、体重共に減少し、運動量が増加していった。(4)
メモリアル大学のもうひとつの研究では、飢餓状態のラットを平らな細い環状路、運動用ホイール、靴箱ほどの大きさのケージ、という3つの異なった環境におき、環状路におかれたラットもABA状態になるかどうかを調べた。(5)
これらの研究は、ラットに、食物を探し求めるために懸命の努力を強いながら欲求を充足させず、飢餓状態という過酷で悲惨な状態におく。何のためにこのようなことを行うのか。拒食症は、人間に特有の複雑な症候群で、主に心理的要因から引き起こされる。ケージの中でラットを飢餓状態におくことで、この症状を理解しようとするのは、うつ状態にしたモルモットに銃を与えて自殺について理解しようとするようなものだ。次回のコラムでは、拒食症への対応としてはより適切な、人間の臨床試験についての考察を行う。
(文中参照文献1〜5は省略)
Physicians Committee for Responsible Medicine (PCRM)
http://www.pcrm.org/resch/anexp/beyond/anorexia_0510.html
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