【ドイツ】
科学者を訴えて動物を救おうとするドイツ人
ザ・サイエンティスト 2004年6月7日
AVA-net 海外 ニュース No.108 2004.9-10
翻訳:宮路
科学者や、2002年の憲法修正によって与えられた動物の権利を侵害する人間を訴える法的権限を動物の権利団体に与えようとする法的な動きがドイツにおいて進行中だ。
動物の権利活動家らは、憲法が動物の権利を守る手段を提供していないと主張している。動物実験は「必要なもの」であり「倫理的に正当化される」ものでなければならないとされているが、これらは曖昧な法律用語であり、具体的に何を意味するかの解釈について法廷はほとんど何もしていない、とドイツ動物の権利のための人々の会会長である弁護士フォン・ローパーはいう。
ドイツの科学界にとって、この動きは国の基礎研究を脅かすものだ。これでは、科学者は研究計画など立てることができない、とマックス・プランク生化学研究所のハインツ・ブランドステターはいう。「動物の権利団体が実際に法廷で勝訴する確立は低いだろうが、どのような訴訟行為でも、実験を相当に遅らせる可能性があり、その結果、多くの研究者がドイツを避けるようになる」フォン・ローパーはこの法律には主として予防効果があると考えており、訴訟は例外的措置になるだろうという。
スイスでのこれまでの経過からすると、フォン・ローパーのいうことは正しいかもしれない。1991年来、チューリッヒ県には、動物福祉事件で動物の代理を行う顧問弁護士がおり、県内の動物福祉団体は、間接的に訴えを起こすことができる。動物実験が承認される前に、研究界の代表8名、および動物福祉団体の代表3名からなる委員会が評価を行い、委員会の提言に基づいて、研究申請は承認、あるいは否認される。しかし、委員会のメンバー3名が委員会の決定に納得していない場合、3名は共同でリコースを提起することができる(提言は多数決によるものなので、少人数がこれに賛成しない場合もある)。
この法律の導入以来、科学者は実験を計画し、申請をまとめる際、それまでより注意深くするようになった、とチューリッヒ動物保護協会の動物学者バーナード・トラヒゼルはいう。
ドイツの上院(連邦上院)は、下院(連邦下院)に法案をまわすべきかどうか6月に決定を下す。どの動物の権利団体が訴訟権を与えられるかが明らかでないこともあり、この法案はチューリッヒのものより問題があるかもしれないとトラヒゼルはいう。団体の中には動物実験を全く認めず、すべての申請を遅らせるか、否認しようとするだろう。
まるで赤ん坊を風呂の水といっしょに流してしまうようなものだと、スイスの動物保護法専門家アントワーヌ・ゴーチェルはいう。ゴーチェルは現在のドイツの法案は成立しないだろうと見ているが、動物の権利に対する関心が高まっているので、この案が再浮上するのは確実で、問題はいつ、ということだけだと考えている。また、リヒテンシュタインはチューリッヒ県条例をモデルに、動物代理権を導入しようとしており、オーストリアの連邦動物保護法も成立されようとしている。フランスとスイスでは、最近の法改正で、動物はもはや「物」とは見なされなくなった。また、イタリアでは、学生が、良心に基づき解剖実習を拒否する自由を得ている。
The Scientist, Volume 18、Issue 11、55
(http://www.the-scientist.com/yr2004/jun/prof3_040607.html)
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