【イギリス】
ケンブリッジ大学、
霊長類実験施設建設計画を断念
AVA-net 海外News No.105 (2004.3-4)
翻訳:宮路
コストがかかり過ぎるため大学は計画中止を余儀なくされ、
動物実験反対派は勝利を宣言
ケンブリッジ大学は、論争の的となっていた数百万ポンドをかけた神経科学研究実験施設設立計画を延期したと発表し、動物実験反対派は勝利宣言を行った。しかし、大学側は、動物の権利過激派からの圧力に屈したのではないかという推測を否定し、経済的問題をその理由としている。
実験施設設立の予定コストは、この6年の間に当初の2400万ポンド(約43億円)から3200万ポンド(約64億円)にまで跳ね上がった。これには動物実験反対派に対処するための警備費用なども含まれている。また、大学がすでに920万ポンド(約18.4億円)の財政赤字を抱えていることもあり、大学評議会は、計画放棄を決定した。
大学は、助成金提供機関や政府とこの問題について議論しており、支援は表明されたものの、建設計画を遂行するための余分な資金は得られなかったという。政府が施設建設のために上限無しの資金を提供してくれるとは大学側も予想しておらず、計画中止は止むを得ないと判断したという。
動物の権利活動家は、この計画が1997年に発表されてから反対してきたが、今回の決定を歓迎している。
英国王立動物虐待防止協会(RSPCA)は、霊長類実験を行わないというものであればどのような決定も歓迎する、人間以外の霊長類は人間との生物学的類似性のために実験に使用されているが、人間に似ているということは、それらの霊長類が人間と同じような苦痛や不快感という意識を持つということを意味するのだという。
一方、医学研究者は今回の決定を憂慮している。研究擁護協会(RDS)会長で動物実験促進ロビー活動家であるマーク・マットフィールドは、計画保留と警備に関する憂慮は、組織化された脅しが原因であり、政府は過激派のキャンペーンを取り締まるためより厳しい法律を作るべきだ。さもなければ、動物実験に依存する医科学研究すべてにとって脅威的存在であり続ける、という。
ケンブリッジ大学は、この6年間論争の焦点となっていたこの実験施設に、同大学の人間以外の霊長類を使用する実験をすべて集め、新たに研究者を招き入れる計画を立てていた。国家レベルにおける重要施設と評され、政府高官レベルからの支持も取り付けており、ブレア首相は、2002年の英国王立学士院でのスピーチで公けに施設設立へのサポートを表明していた。
科学者は、パーキンソン病やアルツハイマー病のような神経疾患の治療法発見や、マラリアやエイズ用ワクチン開発のためには、霊長類実験が唯一の手段であると主張する。霊長類は人間のそれに似た前頭葉を持っている唯一の種であり、高等な認識機能を制御する前頭葉は、霊長類以外の動物ではあまり発達していないのだ。
医学研究評議会(MRC)の最高責任者コリン・ブレイクモアは、霊長類はもちろん特別な種であり、その実験使用を最小限にするために努力するが、霊長類実験は、脳機能について理解するために重要な役割を果たし、人の脳走査方法の開発に貢献してきた、という。
施設周辺でデモを行う動物の権利活動家が交通を停滞させ、また、地元住民への迷惑になることも考えられるという理由で、ケンブリッジの地元議会は施設設立許可の申請を2度却下し、その後の公聴会でも、国家レベルにおける重要施設ではないという理由で施設設立の中止が勧告された。しかし、昨年11月、プレスコット副首相はこの勧告を無効とし、大学に計画申請許可を与えた。
大学は、公私を合わせた資金から2400万ポンドを施設のために確保していたが、計画のスタート以来、インフレ、動物実験に関する内務省法規の改正、余分な警備用経費などのために800万ポンドの追加が必要になったという。さらに、毎年の運営費用も当初の計算より100万ポンド余分に掛かると予想された。
しかし、動物の権利団体Animal Aidは、増大する警備費用のために建設計画を撤回したとする大学の説明は、まったくばかばかしいもので、公聴会の場で、大学もその支援者達も警備については何の問題もないと主張していたし、警備の問題は建設計画検査官の報告書では、重要事項として取り上げられていなかった、という。
The Guardian, 2004年1月28日
|